カールツァイス Batis 1.8/85レビュー|ぜひ試して欲しいポートレートレンズ!

齋藤千歳

Batis 1.8/85で撮った写真

カールツァイスは別格?

 さて、今回はZEISS Batis 1.8/85についてお話させていただきます。
 今回の解説の大前提ですが、私は個人的にカールツァイスすなわちZEISSが大好きです。というか、尊敬しています。カメラやレンズが好きという人で「カールツァイスが嫌い」という方は、よっぽど理由がない限りいないのではないでしょうか。
 その歴史は1846年前遡ることができると言われ、現代カメラレンズや光学機器の父や母であり、現在にも続くレンズ光学界の巨人であることは、多くの方が認める事実だと思います。ある意味、価格も含めて、カールツァイスとライカは別格という考え方もあるかもしれません。

 歴史のある有名メーカーだからZEISSが大好きなのかと聞かれると、答えは「ノー」です。それどころか、現在のようにレンズ性能のこだわり出す前までは、一眼レフ化、AF化にやや乗り遅れているのでは?と個人的に思っていた時期もあります。(自分で申し上げておきながらも、かなり失礼な話で申し訳ございません)
 しかし、いまだにそう思っている方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。そう思っていた私が現在「ZEISSが大好き」というくらいですから、今回のZEISS Batis 1.8/85を含む、カメラレンズの歴史そのものでありながら、現在も最先端で光学技術をリードするZEISSレンズの性能は素晴らしいものがあります。

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■ZEISS Batis 1.8/85/Sony α7 II
■絞り優先AE(F2.0、1/100秒)/ISO 400
■WB:オート/クリエイティブスタイル:ビビッド

 カピバラのポートレートになります。掲載画像を拡大して見てほしいのが、ピントの合った瞳とまつげ、毛の1本1本の解像度の高さです。F2.0でここまで解像します。

ナノメートルオーダーの光学性能

 「大きさや重さ、価格に制限がないなら、ほぼ光学的に完璧なレンズは作れる」という話は、私の周りでよく耳にします。比喩表現や都市伝説的な話ではないかと思ってしまうのですが、いくつかの光学ブランドの技術者は、きっと本気で言っていると思える部分があるのです。

 ただし「大きさや重さ、価格に制限がないなら」という条件は、とても気になります。これらのメーカーの技術者が思う「制限のない」は、私たち一般人の想像力をはるかに超えている可能性があるからです。
 我々が個人レベルで「手持ちで撮影できるのかな?100万円とかしてしまうのかな?」といった常識を遥かに超えている可能性はありますが、ZEISSの光学設計能力なら「35mm判ミラーレス一眼用の光学的に完璧なレンズ」を設計できるのだろうという信頼感を覚えてしまうことも事実です。

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■ZEISS Batis 1.8/85/Sony α7 II
■絞り優先AE(F1.8、1/125秒)/ISO 100/露出補正:+1.3EV
■WB:晴天/クリエイティブスタイル:ビビッド
■撮影協力:Angera Est

 何気なく撮影しても絵になるのはよいレンズの条件といえるでしょう。絞り開放のF1.8なので、背景のぼけも美しいですが、被写界深度内のシャープな描写も魅力的です。

ソニーEマウントを選択するZEISS

 実は私がZEISS BatisやLoxiaがすごいと思っているひとつの理由にソニー Eマウントであることが挙げられます。いまや35mm判フルサイズミラーレス一眼の雄といえるソニー Eマウントの35mm判フルサイズシステムのなんの問題があるのでしょうか。

 細かな話は順次していくとして、ソニー E マウントはマウント内径が小さくことなどがあり、光学的に高性能なレンズが設計・製造しづらい傾向があると考えます。35mm判フルサイズのミラーレス一眼マウントとしては「バリューアングル」は最下位です。

参考までに、いくつかのマウントのマウント内径/フラジンバック/撮像素子サイズ/発売年をみていきましょう。

各種データ

・ソニー Eマウント 47.00mm/18.00mm/35.7×23.8mm(α7R IV)/2010年
・ニコン Zマウント 55.00mm/16.00mm/35.9×23.9mm(Z 7)/2018年
・キヤノン RF マウント 54.00/20.00mm/36.0×24.0mm(EOS R)/2018年
・ライカ L マウント(SL) 51.60mm/20.00/36.0×24.0mm(LUMIX S1R)/2015年
・キヤノン EF-Mマウント/47.00mm/18.00mm/22.3×14.9mm(EOS M6 Mark II)/2012年
・ニコン Fマウント/47.00mm/46.50mm/35.9×23.9mm(D850)/1959年
・ソニー Aマウント/50.00mm/44.50mm/35.9×24.0mm(α99 II)/2006年
・キヤノン EF マウント/54.00mm/44.00mm/36.0×24.0mm(EOS 5D Mark IV)/1987年
・フジフイルム X マウント/43.50mm/17.70mm/23.5×15.6mm(X-Pro3)/2012年


 単純にマウント径が大きくて、フランジバックが短いほうが高性能なレンズを設計しやすいということではないと思います。しかし、ソニー E マウントの内径47.00mmは35mm判フルサイズのマウント径としてはやはり小さく思えてしまうのです。
 当然、ソニーEマウントの発売が2010年と、他の35mm判フルサイズミラーレス一眼に比べて早いということもあると思います。これは1959年発売で、サイズ不足が囁かれていたニコンFマウントと同じ内径47.00mmです。

 しかも、ニコンは35mm判フルサイズミラーレス一眼用のZマウントを発売する際にマウント内径は55.00mmまで大口径化しています。35mm判フルサイズミラーレス一眼の規格のほとんどが、マウント内径50mmを越えていることを考えると、素人目にも47mmのマウント内径は、さすがにちょっと光学的に不利ではないかと思ってしまいます。

 しかし、マウント径などによる光学的な不利がありそうなのにも関わらず、価格などの要素を無視していいなら、ZEISS BatisとLoxiaの最新ZEISS Batis 2/40 CFまで計10本すべてを実写チャートでの検証を行った結果、マウント内径55.00mmのZシリーズ用に開発されたS-Line F1.8シリーズと同等か、それ以上に素晴らしい性能を発揮してくれたレンズシリーズと言えます。

 35mm判フルサイズミラーレス一眼としては、マウント径などの問題で高性能化が難しい条件を抱えながら、ZEISSのレンズは基本的に高性能という点は見逃せません。逆にいうと、ほかのマウントなら、もっと高性能なレンズが出せてしまうのでは? という期待もあります。

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■ZEISS Batis 1.8/85/Sony α7 II
■絞り優先AE(F1.8、1/15秒)/ISO 100/露出補正:+1.0EV
■WB:オート/クリエイティブスタイル:ビビッド
■撮影協力:花もみじ Momijiyama-Design

 絞り開放で背景ぼけはもちろん、前ぼけの様子もチェックしています。どちらも素直で美しい最上級クラスのぼけなのが確認できます。

各種実写チャートからみるZEISS Batis 1.8/85

 35mm判フルサイズミラーレス一眼のなかで、もっともマウント径が小さく、光学的に不利かと思われるソニー E マウントレンズでも、素晴らしい実写チャートの結果を見せるBatisシリーズのZEISS Batis 1.8/85の各種光学性能を、私がAmazon Kindle電子書籍『ZEISS Batis 1.8/85 機種別レンズラボ』を制作する際に撮影した各結果から詳細に解説していきます。

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■ZEISS Batis 1.8/85/Sony α7 II
■絞り優先AE(F1.8、1/100秒)/ISO 640
■WB:白熱灯/クリエイティブスタイル:ビビッド
■撮影協力:サケのふるさと 千歳水族館

 照明が暗い水族館だったのでISO 640と高感度、動き回るサケの稚魚を絞り開放で撮影しています。画面周辺まで開放から解像力が高いのがよくわかります。

解像力チャート

 ZEISS Batis 1.8/85の解像力チャートは、ソニー α7 II(有効画素数約2,430万画素)との組み合わせで観察しました。A2サイズの解像力チャートを画面いっぱいに撮影して、解像理論基準となる大きさのチャートまでをしっかりと解像しているかを、各絞りで中央部分と周辺部分のチャートそれぞれで確認しています。
 また、解像力チャートを撮影する際には、レンズの歪曲具合、周辺光量落ちの傾向、各種収差の発生の様子などもテスト時に確認できた範囲で解説していきます。

 ZEISS Batis 1.8/85の画面中央部の解像力については、絞り開放のF1.8から約2,430万画素の理論値となるチャートよりも一段階小さなチャートまでも解像する勢いで、シャープネスも、コントラストも十分以上の状態で描写してくれます。
 ただし、カメラ側の画素数による理論値よりも細かな描写部分に偽色の発生しやすい傾向がみられました。これはレンズの特性をというよりもカメラの特性による部分が大きいと推測されます。

 さらに、画面の周辺部分についても、絞り開放から理論値以上の解像力を発揮します。シャープネスも、コントラストも十分ですが、理論値を超える部分で偽色が発生しやすい傾向も中央部と同じです。中央部、周辺部ともに絞り開放から解像力が高いので、画面全体のシャープネスなどをアップするために絞りを絞る必要は感じません。

 ただし、細かくみていくなら解像力のピークはF8.0前後ではないかなと考えています。。解像力をアップするために特定の絞り値を選ぶ必要は感じませんが、F16よりも絞ると回折や小絞りぼけの影響で全体の解像力が低下することがありましたので、特別な撮影意図などがない限り絞り過ぎはおすすめしません。

 歪曲傾向は、テスト時に糸巻き型が見受けられました。目立つというレベルではありませんが、カメラ設定の「レンズ補正」の「歪曲収差補正」は「入」にしておくことをおすすめします。気になるシーンではRAWデータも撮影しておき、RAW現像時に補正するなどの対策も考慮しておくとよいでしょう。レンズの各種色収差などは、開放付近で若干発生しているように見受けられますが、α7II の傾向だと思われる解像力限界付近での偽色のほうが気になる程度です。

 開放のF1.8から、ここまでしっかり解像するなら、開放絞りの数値をもう1段明るくしてほしいと思ってしまうレベルで高い解像力とコントラストを楽しむことができるレンズに仕上がっています。

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■ZEISS Batis 1.8/85/Sony α7 II
■絞り優先AE(F8.0、1/320秒)/ISO 200/露出補正:−0.3EV
■WB:オート/クリエイティブスタイル:ビビッド

 絞り開放から解像力は高いのですが、厳密にみていくならF8.0が、このレンズの解像力のピークです。そのF8.0での高い解像力で遠景を撮影しています。

最短撮影距離・最大撮影倍率

 ZEISS Batis 1.8/85の最短撮影距離は約80cmで、最大撮影倍率は約0.13倍となっています。何本かの85mm単焦点レンズ、いわゆるポートレートレンズを使ったことのある方なら「ごく平凡」と感じる数値スペックでしょう。モデル撮影時などで夢中になっている際に急にピントが合わなくなったという時は、最短撮影距離よりも近づいてしまっていることもよくあるので、慌てず少し下がることをおすすめします。

 最短撮影距離が意外と長い問題は、ZEISSのBatisとLoxiaでは、ZEISS Batis 2/40 CFを除く、多くのレンズで感じます。しかし、最短撮影距離の長さは近接撮影時の画質低下が起きないための処置と感じることが多いのです。ZEISSのレンズは、使用条件(撮影距離など)によってZEISSが認めない画質で写真が写ることを極端に嫌う傾向があると考えています。
 そのため、撮影距離において、画質に極端な差が生まれないように、最短撮影距離を短くしない方針なのかなと想像します。

 逆に「遠景の描写は?」という疑問もあるでしょう。近距離での描写にも徹底したこだわりのあるZEISS Batis 1.8/85なので、遠距離でも高い解像力が楽しめます。製品のクオリティに対する圧倒的なこだわりは非常にZEISSらしいと思いますが、それでも寄れると便利なのにと思うことがあるのは事実です。

周辺光量落ち

 周辺光量落ちは、ZEISS Batis 1.8/85は開放のF1.8からF2.8あたりまでは、どうしても周辺光量落ちが見受けられます。テスト撮影時のα7 IIの設定は初期設定の「レンズ補正」-「周辺光量落ち」-「オート」としていますので、カメラ本体による周辺光量補正は行われていますが、周辺光量落ちは発生していました。もちろん、F2.8以降まで絞ると開放付近では明確に観察されていた周辺光量落ちは大きく改善されます。         
 気にしなくてはいけないシーンでの撮影ではRAWデータも同時記録しておくことをおすすめします。

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■ZEISS Batis 1.8/85/Sony α7 II
■絞り優先AE(F1.8、1/5,000秒)/ISO 50/露出補正:−0.7EV
■WB:日陰/クリエイティブスタイル:ビビッド
絞り開放のF1.8で太陽を画面内の思い切り入れて撮影しています。どこまでやるとフレアやゴーストが出るかと思い、ほぼ嫌がらせのように撮影しています。

ボケについて

 ボケについて解説していきます。まず、「ZEISS Batis 1.8/85のぼけ味は?」と問われれば「素直で美しい最上級の結果」といえます。ZEISSが85mmのポートレートレンズとして、十分以上に美しいことご理解いただいた上で、詳細を解説させていただければ幸いです。

 まずぼけ自体の形ですが、絞り開放のF1.8では中央付近はほぼ真円の玉ぼけが見受けられます。口径食による玉ぼけの変形はしっかりと発生しますので、周辺部の玉ぼけは欠けた月のようになる傾向です。絞りによるぼけの形への影響ですが、F2.0から絞り羽根の形が見えはじめるので、気になる方は開放のF1.8を使うことをおすすめします。画面中央の玉ぼけと周辺部の玉ぼけの形をそろえようと考えるとF5.6あたりまで絞らなくてはいけないので、私はあまりおすすめしません。

 次にボケのフチを見ていくと、僅かではありますが開放付近では色つきが見受けられました。円の画面中心側と外側で色傾向が違うので、開放付近では解像力チャートの傾向との両方から若干の倍率色収差が発生していることがありました。
 ぼけの内側については、多少の濃度ムラはありますが、問題になるレベルではないと感じ、ZEISS Batis 1.8/85のぼけは、ZEISS Batis 2.8/135などと同等の最上級クラスとぼけ味といえるでしょう。

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■ZEISS Batis 1.8/85/Sony α7 II
■絞り優先AE(F1.8、1/8,000秒)/ISO 100/露出補正:−0.3EV
■WB:オート/クリエイティブスタイル:ビビッド

 質感の再現を確認したく、鉄分の多い被写体を選択しました。これも絞りは開放のF1.8です。画面の周辺部までしっかりと拡大して、ぜひご確認ください。

レンズデザインや操作性について

 ここまで、ZEISSの光学技術の背景やZEISS Batis 1.8/85の光学性能を中心に話をしてきましたが、レンズデザインや操作性についても、少しお話させていただきます。

 レンズデザインについては、Batisシリーズ全体で統一されたシンプルなものになっています。レンズフードを装着した状態でデザイン的に完成するように計算されているので、カメラに装着した状態でも見た目がよく、気持ちよく操作できます。
 また、頑丈で耐光性の高い金属鏡筒には、合焦距離や被写界深度の表示が可能なZEISSが「遊び心溢れる有機ELディスプレイ」と呼ぶ有機ELが装備されています。この有機ELの表示は実際に使用するとかなり便利です。星景写真や夜景撮影の際にも実用性が高く感じます。

 純正以外のレンズでは、AFによる合焦の速度や精度を気にする方も多いと思いますが「スムーズで信頼性の高いオートフォーカス」と同社がいうとおり、撮影時にAFの合焦速度や精度に不満を感じることはありませんでした。
 当然ZEISSの高級レンズといえばMFでピントを合わせたいという要望もあると思いますが、Loxiaなどの「金属、金属」とした感触とは異なりますが、Batisのピントリングも、ピントリングが回したいからMFで撮影しようと思うレベルの心地よい仕上がりになっています。

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■ZEISS Batis 1.8/85/Sony α7 II
■絞り優先AE(F8.0、1/200秒)/ISO 100
■WB:晴天/クリエイティブスタイル:ビビッド

 色のり、細部描写、逆光性能などなど、一度ZEISS Batis 1.8/85で撮影すると、そのすべてのレベルの高さにうっとりしてしまうクオリティです。

ZEISS Batis 1.8/85のまとめ

 これまで数多くのレンズの実写チャートを撮影してきて、光学的な性能だけでいうとシンプルな構造のレンズが有利という印象をもっています。同じ価格帯で同じような大きさ、重さなら、AFありとなしだとAFなしのほうが光学的に有利なイメージがあるのです。
 ZEISS Batis 1.8/85は光学式手振れ補正を搭載していないので、他のBatisシリーズよりも光学的にちょっと不利な部分があるのでは?と思っていたのですが、全くの杞憂でした。

 実写チャートでのテスト項目はないのですが「逆光耐性は?」というご質問については、「ZEISS Batis 1.8/85を使っているときに意識したことはありません」という回答となります。嫌がらせのように画面内に太陽を入れて撮影しても、いつも高コントラストを保ち、色のりもよく再現してくれるので、逆光耐性を意識して撮影する必要すらないといったレベルです。

 ZEISSがWEBで「万能で多用途なフルサイズレンズ」と呼ぶZEISS Batis 1.8/85ですが、私、個人は今までテストしてきた85mmF1.8の中でこのZEISS Batis 1.8/85はTOP3に入るレンズだと考えています。

 ライカと並んでカメラ光学の歴史そのものともいえるZEISSは、いまだに現代社会を支える最先端光学技術でトップシェアをもっており、その中でも、ZEISSのZEISS Batis 1.8/85は非常に高性能です。

 私の作例では風景などがメインですが、より透明感のあるポートレート写真が撮影したいというについても、同じ85mmのF1.8を買い増しても後悔のない85mmポートレートレンズの最高峰レベルの性能を発揮してくれることは間違いありません。ソニー E マウントユーザーであれば、一度は使ってみていただきたい1本です。

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