フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical レビュー|齋藤千歳

フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical作例

「フォクトレンダー史上最高の標準レンズ」


フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical作例2
■フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical/Sony α7R III/50mm
■絞り優先AE(F2.0、0.8秒)/ISO 100/露出補正:+1.0EV
■WB:オート/クリエイティブスタイル:ビビッド

郷土資料館に展示されていたひょっとこと獅子舞です。
ひょっとこの前ぼけ、ピントの合った獅子舞の瞳のシャープさ、なにを撮っても絵になるレンズです。


 フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Asphericalは、日本が世界に誇る名門光学メーカー、コシナがHPで
「コシナ創業60年、フォクトレンダーのレンズ発売から20年で培った技術を結集し、究極の性能を追求。フォクトレンダー史上最高の標準レンズとしての性能と、コンパクトでハンドリングのしやすさを兼ね備えています。」
■引用:コシナHP

と明記する気合いの入った1本になっています。

 レンズ名称が難しいのですが「フォクトレンダー アポランター 50mm F2 アスフェリカル」と読みます。レンズ名称からは軸上色収差や倍率色収差を徹底して排除したアポクロマート設計であること、50mmの標準レンズであること、開放がF2でAspherical(非球面レンズ)が採用されていることが読み取れます。実際のレンズ構成は8群10枚で、非球面レンズが2枚、異常部分分散レンズが5枚使用され、使用レンズの70%が特殊レンズという恐ろしく豪華な仕様になっています。

 用意されるマウントはソニー Eマウントで35mm判フルサイズにも対応します。また、マニュアルフォーカス(MF)レンズですが、マウント部に電子接点を搭載し、Exif情報はもちろん、距離エンコーダーを内蔵しているのでカメラボディ側の5軸手ブレ補正に対応(5軸対応ボディのみに対応)しているのも嬉しいところです。フォーカスリング操作によるファインダーの拡大表示にも対応しています。

F2.8で再び真円になる特別な12枚絞り羽根


フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical作例3
■フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical/Sony α7R III/50mm
■絞り優先AE(F9.0、1/1,000秒)/ISO 100/露出補正:−0.7EV
■WB:晴天/クリエイティブスタイル:ビビッド

北海道・豊頃町の大津海岸の朝焼けです。
まだ、ジュエリーアイスと呼ぶには小さな氷のきらめきと海上の毛嵐、昇る太陽を高いコントラストで捉えてくれました。


 強いこだわりと豪華な仕様は、光学系だけでなく、機構設計にも現れています。ぼけの形のこだわったフォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical の12枚の絞り羽根は単純に12枚と枚数が多いだけではないといいます。絞り羽根の一部を丸くすることで、開放のF2.0はもちろん、1段絞ったF2.8でもほぼ真円となり、同時に各絞りでも12枚という枚数の多さを生かしてより円形に近い12角形になるよう、数式計算だけでなく、手探りで設計されたものです。

 フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Asphericalですが、究極を追求して設計された35mm判フルサイズ対応のミラーレス一眼用レンズとしては「非常に小さい」印象です。ここ数年においては35mm判フルサイズ対応のミラーレス一眼用高性能レンズといえば「大きい」のが当たり前といった風潮になっているように感じます。

 しかし、本レンズは最大径約Φ62.6mm×61.3mm、質量は約364gと非常に軽量コンパクトです。対応フィルター径も49mm。軽量コンパクトの大きな理由として50mmの単焦点でありながら開放はF1台ではなく、F2.0を選択したことも大きく影響していると考えられます。

 コシナ創業60年、フォクトレンダーのレンズ発売から20年で培った技術を結集したというフォクトレンダー史上最高の50mm標準レンズ・フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Asphericalの性能を解像力、ぼけディスク、周辺光量落ち、最短撮影距離と最大撮影倍率の実写チャートを基本に制作したAmazon Kindle電子書籍「フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical レンズデータベース」のデータを元に詳細に解説していきます。


すべてを絵にしてしまう極上の解像力


フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical作例
■フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical/Sony α7R III/50mm
■絞り優先AE(F2.0、0.4秒)/ISO 100/露出補正:+0.7EV
■WB:オート/クリエイティブスタイル:ビビッド

絞り開放で青いシベの上部にピントを合わせて撮影しました。極上の高い解像力がなめらかなぼけと相まって写真に緊張感を与えてくれます。


 フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Asphericalの解像力チャートの撮影は、有効画素数約4,240万画素のSONYα7RIIIとの組み合わせで行いました。絞り開放のF2.0からF16まで全ての絞りで撮影し、その変化を詳細に観察した結果からいうと、過去に私が解像力チャートを撮影してきたレンズのなかでも最高レベルの解像力です。
フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical解像チャート
「フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical レンズデータベース」より、解像力チャートの一部を抜粋。



 電子書籍より一部を抜粋して掲載した解像力チャートを見てもらうと分かるように、絞り開放のF2.0から基準となるチャートの0.8は中央部でも、周辺部でも十分に解像しています。それどころか画素数不足で解像しないはずの0.7のチャートまで一部解像している状態です。

 また、本レンズの驚異的な部分は中央部の解像力については、絞り開放から十分以上にシャープで絞ってもほとんど変化しません。さらに周辺部分に至っては、絞り開放からF2.8あたりまでは周辺光量落ちの影響でコントラストが落ちて見えるというレベルでの解像力低下であり、F4.0以降ではこの周辺光量落ちの影響も低減し、中央から周辺部まで画面全体で非常に高い解像力を示します。ただし、F11以降ではF8.0あたりに比べると少しあまくなる傾向で、F16あたりでは絞り過ぎによる解像力低下が顕著になるのであまりおすすめできません。

 撮影している解像力チャートでは、各種色収差の影響や歪曲については観察できるのですが、フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Asphericalにおいては、軸上色収差や倍率色収差などの色収差は開放の画面周辺においても観察されず、歪曲については極わずかに糸巻き型傾向で発生が確認できたのみです。収差や歪曲についても非常に優秀な結果といえるでしょう。


形も描写の美しいぼけディスクチャート


フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical作例4
■フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical/Sony α7R III/50mm
■絞り優先AE(F2.0、1/160秒)/ISO 100/露出補正:+1.7EV
■WB:オート/クリエイティブスタイル:ビビッド

何気なく撮影しても、開放から画面全体で高い解像力と美しいぼけで絵になってしまうのが、このレンズの最大の魅力といえるかもしれません。


 ぼけの形や描写の評価は、画面内に小さな点光源を入れ、この点光源をぼかして玉ぼけ状態にしたぼけディスクチャートで行っています。画面内の対角線上に発生させた玉ぼけ(ぼけディスクチャート)の形と描写から、さまざまな情報が読みとれます。

boke.png
「フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical レンズデータベース」より、ぼけディスクチャートの一部を抜粋。



 フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Asphericalのぼけの大きな特徴は、12枚羽根絞りで開放F2.0のほぼ真円からF2.8まで絞るとぼけの形が12角形から、再びほぼ真円に戻るという点です。このF2.8で再び真円に戻る現象は実際に掲載したぼけディスクチャートで確認できます。F2.0から絞っていくとF2.5ではかなり円に近い12角形であった玉ぼけの形状がF2.8で再びほぼ真円になっているのがわかります。
 また、絞り羽根の形状も工夫を凝らしたもので、開放やF2.8以外でもかなり円に近い形です。
 
 ぼけの描写自体については、非球面レンズを2枚使ったレンズなので、ぼけディスクチャートのなかに同心円状のシワが現れる玉ねぎぼけが心配されたのですが、ほぼ影響を感じることのない優秀な結果です。
 ただし、ぼけディスクのなかの描写はまったくのフラットかといえばそうでもなく、ザワつくというレベルではないのものサワサワした模様のような乱れは観察されます。しかし、各種色収差の影響によるぼけディスクチャートのフチへの色付きなどもなく、基本的にレベルの高い美しいぼけが得られる結果になっています。


平凡な最短撮影距離と最大撮影倍率に安心する


フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical作例5
■フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical/Sony α7R III/50mm
■絞り優先AE(F2.0、1/8秒)/ISO 100/露出補正:+0.3EV
■WB:晴天/クリエイティブスタイル:ビビッド
ミミズクの彫刻をアップで撮影しました。最短撮影距離は普通なので、あまり寄れません。木目や彫刻の跡などまで繊細なぼけと相まって豊かな立体感で表現されます。


 なにかと非凡な撮影結果をたたき出すフォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Asphericalですが、最短撮影距離と最大撮影倍率については、ちょっと安心するくらい平凡です。50mmの単焦点レンズとしては、フィルム一眼レフ時代からの伝統といっていいほど多くのレンズに共通する最短撮影距離は約45cm、最大撮影倍率のメーカー表記は1 : 6.46、約0.15倍となっています。

 非常に平凡なスペックですが、素直な感想としては、いまどきのレンズとしては寄れない印象です。最短撮影距離付近でも、高い解像力などがしっかり発揮されるのには感心しますが、もう少し寄れると撮影の自由度がアップするので残念に思う反面、これくらいの平凡さがあることに安心してしまう部分もあります。

周辺光量落ちはどうしても発生してしまうので注意を


フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical作例6
■フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical/Sony α7R III/50mm
■絞り優先AE(F8.0、1/15秒)/ISO 100/露出補正:−0.7EV
■WB:晴天/クリエイティブスタイル:ビビッド

解像力のピークと推測されるF8.0で撮影しています。高い解像力はもちろん、色のりのよさやグラデーションの美しさも見てもらえると思います。


 フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Asphericalの唯一の弱点といってもいいのが、周辺光量落ちです。解像力チャートでも開放付近で周辺部のコントラストを低下させる程度の周辺光量落ちが発生していることは見受けられました。実際に周辺光量落ちを観察するためのチャートを撮影すると、開放のF2.0からF2.2、F2.5ではどうしても発生し、F2.8で落ち着き、F4.0ではほぼ気にならないレベルで周辺光量落ちがみられます。

 F4.0まで絞ってしまえば、気にならないレベルではあります。しかし、絞り開放から周辺部分まで解像力が高く、ぼけも美しいレンズですので、周辺光量落ちを回避するために絞るよりも、カメラのレンズ補正機能を調整するか、RAW画像も撮影しておいて必要なシーンではRAW現像時に補正することをおすすめします。周辺光量落ちは、デジタルによる後処理が行いやすいので、最近のレンズ設計では解像力などを優先し、周辺光量落ちなどはデジタルで後処理することを前提に設計するのも一般的なので、あまり気にする必要はありません。

まるでひと皮むけたように見える魔性の解像感とぼけ


フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical作例7
■フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical/Sony α7R III/50mm
■絞り優先AE(F2.0、0.8秒)/ISO 100/露出補正:+0.7EV
■WB:オート/クリエイティブスタイル:ビビッド

ウマの瞳にピントを合わせて撮影しています。ピント位置の極上のシャープネス、そして繊細なぼけの描写が肉眼で見る以上のリアリティを再現してくれます。


 フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Asphericalは、1度使うとレンズ、写真好きなら絶対にほしくなる魔性レベルのレンズに仕上がっています。あえて弱点を挙げるなら、平凡な最短撮影距離と最大撮影倍率、やや目立つ周辺光量落ち、そして50mm単焦点開放F2.0のレンズで約11万円を超える実勢価格でしょう。

 しかし、それらを差し引いても、なにを撮影しても絵にしてしまうレベルの極上の解像力とシャープネス、それを上手に強調し演出してくれる繊細なぼけの描写、まるでひと皮むけたような肉眼で観察する以上のリアリティと本当に素晴らしいレンズに仕上がっています。

 「コシナ創業60年、フォクトレンダーのレンズ発売から20年で培った技術を結集し、究極の性能を追求。フォクトレンダー史上最高の標準レンズ」というだけの素晴らしいレンズに仕上がっていると思います。現実的に購入可能な究極レベルの50mm標準レンズとして、ぜひ多くの方のその描写を体験してもらいたいレンズです。