銘匠光学 TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH レビュー|クラシカルでコンパクトな標準単焦点レンズの新星誕生!

00_TTArtisan 50mm f14 ASPH製品画像.jpg

8群10枚のすべてが特殊レンズという豪華な標準単焦点


 TTArtisan 50mm f/1.4 ASPHは、2019年6月に設立された銘匠光学の新レンズブランド「TTArtisan」が製造するレンズです。

01_作例.JPG
■撮影機材:Sony α7R III +TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH
■撮影環境:f/1.4 1/100秒 絞り優先AE ISO400 +1.0EV AWB クリエイティブスタイル:ポートレート 焦点距離50mm

 このTTArtisan 50mm f/1.4 ASPHは絞り開放のF1.4から解像力の高いレンズですが、開放付近だけは、にじむようなソフト描写が得られ、これも魅力的です。本レンズは、その名のとおり50mmの開放F1.4で、35mm判フルサイズに対応するライカ Mマウント用単焦点レンズです。なお、銘匠光学は純正でライカ Mマウントからのマウント変換アダプターを用意しています。それらを使えば、キヤノンRFやソニーE、ニコンZ、フジフイルムX、ライカLはもちろん、ハッセルブラッドX1D.X、フジフイルムGマウントにもレンズを装着できます。しかも、TTArtisanのマウント変換アダプターは比較的リーズナブルなのも魅力です。カメラと各種情報をやり取りするための電子接点を持たないフルマニュアルタイプのレンズですが、レンズ本体も比較的リーズナブルな価格になっています。

 スペックや価格などからエントリー向けの標準レンズと思う方も多いと思いますが、レンズ構成は8群10枚で、ED(特殊低分散)ガラスレンズ1枚、非球面ガラスレンズ1枚、高屈折低分散ガラスレンズ8枚と、採用しているのがすべて特殊レンズという豪華な仕様です。また、ボケの形に配慮した12枚という枚数の多い絞り羽根を採用しています。

 また、外観はライカMマウント用だけあって、金属パーツを多用した重厚な印象。質量は約400gですが、大きさは最大径が約57mmで長さが約67mm。35mm判フルサイズ対応の標準レンズとしては、やや不安になるほどのコンパクトさです。クラシカルな外観からボケ重視のレンズかと思ったのですが、メーカーアナウンスによると「超高画素時代にふさわしい圧倒的な描写力を誇り、大口径ながらコンパクトサイズ、カメラボディとのバランス・携帯性を考慮した設計」とのことです。

 筆者は、そんなTTArtisan 50mm f/1.4 ASPHを入手し、各種実写チャートや作例などを撮影しました。この実写チャートの結果などを元に、本レンズを詳細に解説していきます。

絞り開放から高い解像力、絞ると周辺部までクッキリ


02_作例.JPG
■撮影機材:Sony α7R III +TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH
■撮影環境:f/8 1/250秒 絞り優先AE ISO100 -0.3EV WB:晴天 クリエイティブスタイル:スタンダード 焦点距離50mm

 本レンズの解像力のピークであるF8を選択しました。画面端の海面の波、灯台のライト部分の細部など、画面周辺部までクッキリと解像しています。それでは「超高画素時代」に対応したレンズというTTArtisan 50mm f/1.4 ASPHの解像力からチェックしていきましょう。なお、カメラボディはSony α7R III(有効画素数約4,240万画素)を使用したため、基準となるチャートは0.8です。

03_チャート.png
04_チャート.png
絞り開放から、しっかりと解像している様子が見てとれる。

 まずは中央部から見ていきましょう。絞り開放のF1.4から基準となるチャートの0.8を、ほぼ解像しています。ただし解像はしていますが、開放のF1.4付近では、ややにじむようなソフトな描写になる傾向です。絞っていくほどの解像力が増す傾向で、チャートを構成する白と黒のラインのコントラストがアップしていきます。解像力のピークはF8からF11といった印象です。絞り開放F1.4付近でのにじむようなソフト描写以外は、基本的にどの絞りでも中央部はかなりシャープです。

 周辺部分については、中央部に比べて絞り開放付近で解像力が落ちます。開放付近では、中央部と同じようにややにじむようなソフト描写も見られます。ただし、周辺部も絞るほどに解像力がアップする傾向で、F8からF11あたりでは中央部と大きな差を感じないクッキリとした描写が得られます。これは、かなり優秀な結果といえます。

 絞り開放付近でのにじむようなソフトな描写は、中央部、周辺部とも発生します。筆者が実際に撮影していると近接撮影でさらに目立つ印象なので、覚えておいてポートレート撮影などに活用することをおすすめします。上記の赤ちゃんの写真は、このにじむような描写と大きなボケを意識してソフトに仕上げたつもりです。

 歪曲収差は、わずかに糸巻き型で発生。絞り開放付近の周辺部では、多くはないものの色収差が観察されます。とは言え、気になるシーンではRAW画像を撮影しておき、現像時に補正してしまえば問題のない範囲と言えます。

ライカMマウント用のため最短撮影距離は70cm


05_作例.JPG
■撮影機材:Sony α7R III +TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH
■撮影環境:f/1.4 1/3200秒 絞り優先AE ISO50 -1.0EV WB:晴天 クリエイティブスタイル:スタンダード 焦点距離50mm

 最短撮影距離の約70cm、絞り開放で撮影しました。距離計連動型のレンジファインダーカメラであるライカMマウント用のTTArtisan 50mm f/1.4 ASPHは、その距離計の最短撮影距離である70cmがレンズの最短撮影距離となっています。なお、最大撮影倍率は非公開です。ライカMマウント用のレンズとしては、非常に寄れるレンズということが言えるでしょう。

06_説明画像.png
ほぼ実寸になるようにプリントアウトした静物写真を複写。ライカMマウント用レンズとしては高い接写性能

 レンズテストでは使用しませんが、ライカMマウント用などのレンジファインダー向けのレンズをミラーレス一眼などに装着して使う際、より高い接写能力を望む場合は、レンズを繰り出して接写能力を強化するヘリコイド付きのマウントアダプターを使うのが一般的です。さらなる接写が必要ということであれば、ヘリコイド付きのマウントアダプターを使えば、よりダイナミックな接写が可能となります。

あえて周辺光量落ちを効果として活用する


07_作例.JPG
■撮影機材:Sony α7R III +TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH
■撮影環境:f/1.4 1/3200秒 絞り優先AE ISO50 +0.3EV AWB クリエイティブスタイル:ビビッド 焦点距離50mm

 絞り開放で撮影したハクチョウのモニュメント。周辺光量落ちによって画面の四隅で青空が暗くなっているのが分かります。このTTArtisan 50mm f/1.4 ASPHは、カメラと各種情報をやり取りするための電子接点を持たないタイプのフルマニュアルレンズです。そのため多くのカメラメーカー純正レンズのように、カメラ本体の周辺光量補正など、デジタル補正の恩恵を受けられません。テストの結果も、絞り開放付近ではかなりはっきりとした周辺光量落ちが発生しているのが分かります。

08_作例.png
09_作例.png
絞り開放のF1.4で、かなりハッキリ発生していた周辺光量落ちは、F2.8あたりまで絞るとほとんど目立たなくなる

 絞り開放のF1.4では、かなりしっかりとした周辺光量落ちが観察される本レンズですが、絞っていくと徐々に改善し、F2.8あたりまで絞ると、ほとんど気にならないレベルになります。つまり、周辺光量落ちが気になるという方は絞ってしまえば解決するとも言えるでしょう。

 なお、周辺光量落ちは比較的デジタルでの補正が容易だと言われており、RAW画像を撮影しておけば現像時にかなり補正することが可能です。しかし、カメラとの各種情報のやり取りを行い、カメラ本体で周辺光量を補正している純正レンズなどでも、完全に補正していることは、ほぼありません。言うならば、意図的に周辺光量落ちを残しているようなのです。

 あえて周辺光量落ちを残すのは、視線の誘導効果を狙ったものと推察されます。周辺光量が落ちることによって、画面の端に比べて中央に配置した被写体が明るく目立つため、見る人の視線を写真の主題に誘導する効果があると言われています。状況によっては、RAW現像などの後処理で周辺光量落ちを強調しているというプロカメラマンも少なくありません。

 そのため、TTArtisan 50mm f/1.4 ASPHの絞り開放付近の周辺光量落ちは、効果として把握しておき、活用することをおすすめします。撮影シーンによって周辺光量落ちが逆効果になる場合は、絞って解決するか、RAW画像も撮影しておいて後処理で解決するかという二択になります。これは、そのシーンでどのくらいボケを発生させたいかで判断するとよいでしょう。

12枚羽根の絞りから発生する形の美しいボケ


10_作例.JPG
■撮影機材:Sony α7R III +TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH
■撮影環境:f/1.4 1/2000秒 絞り優先AE ISO100 WB:晴天 クリエイティブスタイル:ビビッド 焦点距離50mm

 絞り開放のF1.4で撮影したベンチ。ピントの合っている部分から、手前に前ボケ、後方に背景ボケがそれぞれ大きく発生しています。「ぼけのチャート」からは、TTArtisan 50mm f/1.4 ASPHが、ボケよりも解像力を優先して設計されたレンズだということを感じられる結果を得ました。

 「ぼけのチャート」からボケの質を観察するには、撮影した「玉ぼけ」が、できるだけフラットで、ザワつきやムラ、線などが入らないほうが滑らかで素直な美しいボケが得られると考えてください。また「玉ぼけ」のフチに色収差などの影響で発生する色付きなどもないほうが質の高いボケが得られます。

 TTArtisan 50mm f/1.4 ASPHの「ぼけのチャート」から読み解けた結果は、12枚羽根の絞りを採用した形については、絞っても目立ったカクツキが発生しづらい優秀なものです。ただし、解像力を優先したレンズのためか、ややザワつきと非球面レンズの影響と言われることの多い同心円状の線が入り、いわゆる「玉ねぎボケ」が発生しやすい結果といえます。

コンパクトで周辺部まで高解像なコスパが高い標準レンズ


11_作例.JPG
■撮影機材:Sony α7R III +TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH
■撮影環境:f/1.4 1/13秒 絞り優先AE ISO400 -0.7EV WB:電球 クリエイティブスタイル:ビビッド 焦点距離50mm

 遠景の夜景、そして画面の四隅に細かい描写を必要とする被写体ではないので、絞り開放のF1.4で撮影しました。橋の細かな部分までしっかり解像しています。このTTArtisan 50mm f/1.4 ASPHはマニュアルフォーカスとはいえ、金属パーツを多用して質量は約400g、大きさも最大径が約57mm、長さが約67mm。35mm判フルサイズに対応する高解像タイプの50mmF1.4としては、さすがに小さすぎるのではないか、というのが筆者の第一印象でした。

 しかし、実際に解像力チャートを撮影してみると印象は一変しました。さすがに現在主流となっている、大きくて、重くて、高価な絞り開放から画面周辺までバキバキに高解像なレンズと、このTTArtisan 50mm f/1.4 ASPHは異なります。開放のF1.4付近は、ややにじむようなソフトが発生しますが、基本的には解像しており、中央部分はわずかに絞れば十分以上にシャープに、中央部に比べると解像感の弱い周辺部もF8あたりまで絞ると中央部と変わらない解像力を発揮します。小型軽量でリーズナブルな50mmF1.4とは思えない結果です。

 わずかに絞ると消えてしまう、絞り開放付近でのみ発生するにじむようなソフト効果は、クラシックレンズなどで言われる「解像しているが紗のかかったような」といったものに近い印象となっています。筆者は、しっかり絞って全体にシャープな印象のほかに、開放付近の近接、ポートレート撮影などに活用しやすく重宝しています。しかも、わずかに絞ったF1.8やF2.0でソフト効果が消えてしまうので、ソフト効果が必要ないシーンでは少し絞るとよいでしょう。

 まとめますと、このTTArtisan 50mm f/1.4 ASPHはリーズナブルでコンパクト、しかも開放付近での柔らかな表現を得意とし、絞れば画面周辺まできっちりと解像する明るい50mm標準レンズです。1本持っていると、ポートレート撮影から風景、建築物といった撮影まで楽しめるので便利です。また、電子接点などがない代わりに、純正マウントアダプターなどを使えば、さまざまなカメラボディで使えるのも大きなメリットと言えるでしょう。

12_作例.JPG
■撮影機材:Sony α7R III +TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH
■撮影環境:f/2.8 1/100秒 絞り優先AE ISO100 -0.3EV WB:晴天 クリエイティブスタイル:ビビッド 焦点距離50mm

 周辺光量落ちの影響が少なく、周辺部の解像力もアップするF2.8を選択して撮影しました。発色もよく、気持ちのよい1枚です。

■写真家:齋藤千歳
カメラ・写真関連の電子書籍「ぼろフォト解決」および「Foton」シリーズの出版者。レンズやカメラをみると解像力などの実写チャートを撮影したくなる性質があります。千歳市在住で北海道各地を撮影しています。

■技術監修:小山壯二