キヤノン RF15-35mm F2.8 L IS USM レビュー|秦達夫

秦達夫

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プロローグ

 僕はRF15-35mm F2.8 L IS USMの登場は少し戸惑った。このレンズの登場を知ったのはキヤノンイメージゲートウェイからのメルマガからだった。このメルマガはキヤノン製品の最新情報がいち早く届けられ、とても役に立つ。興味のある方は登録してみると良いと思う。

 そこで目にしたのが「15-35mm」の表記だった。始めは誤植だと思ったのだ。前モデルと言う表現が正しいかどうかはさておき、EF16-35mm F2.8L III USMのイメージがあるのでワイド側は「16」だとばかり思っていたのだ。ところが調べてみると「15-35mm」の表記は間違っておらず正しいことがわかった。

 これは事件と言っても良い出来事であり、広角好きの僕にとっては朗報とも言える出来事であった。1mmの差など大したことはないと感じる方もいると思うが、広角側の1mmの差は2°弱の画角の差につながり広角では写る範囲に大きな影響を与える。しかも、ミラーレス化によってフランジバックのショート化からレンズ設計の自由度が増したRFレンズシリーズである。期待が膨らまないわけがない。

キヤノンイメージゲートウェイ登録方法
https://ptl.imagegateway.net/contents/entry/index.html

1_RF15-35mmの作例.JPG
■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF15-35mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:F4.0 1/2000秒 ISO320 露出補正+2/3 WB 太陽光 ピクチャースタイル 風景

外見

 カメラのミラーレス化が進む中、それ専用のレンズがどんどん開発され今まで以上に小型軽量化が推し進められている。望遠系のレンズはその差が解りやすく、従来型より短いレンズが多く発売されている。しかし、広角ズーム系はその流れと逆行しており、今回紹介するRF15-35mm F2.8 L IS USMは広角ズームレンズとしては大きいレンズとなっている。大きさのイメージはRF24-105mm F4 L IS USMをほんの少し大きくしたくらいだ。

 なぜここまで大きくなってしまうのか簡単に説明すると、広角レンズは広い視野から入ってくる光(入射角の急な光)をレンズ内でコントロールし、センサーに垂直に当てなければならないからだ。RF15-35mm F2.8 L IS USMは12群16枚ものレンズ玉を用いる事でこの問題をクリアしているが、その反面サイズはやや大きいものとなっている。それだけ画質に拘りを持った設計になっていることの裏付けとも言え、この大きさは妥協無きレンズの証明と言えるのではないだろうか。

 レンズ径はEF16-35mm F2.8L III USMと同じ82mmのため、レンズを買い換えてもフィルター類は使い回しが可能になっていることが嬉しい。RFレンズ特有の「コントロールリング」も装備されており、自分好みのカスタマイズも可能な仕様になっている。

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■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF15-35mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:F5.6 1/250秒 ISO200 露出補正+2/3 WB 太陽光 ピクチャースタイル 風景

ワイド側が15mmとなった

 プロローグでも書き記しているが、ワイド側が15mmになった事は驚きでもあるし朗報でもある。僕は広角レンズ最強説を唱える1人である。それはどういう意味かと言うと、広角レンズは望遠レンズの代わりを担うことが出来るが望遠レンズは広角レンズの代わりを絶対に出来ない事にある。

 この話をし始めると本が1冊書けてしまうくらい話が膨らんでしまうので簡単に話をまとめよう。被写体を大きく撮る為に望遠レンズを使うと思うが、被写体に近づけば広角レンズでも被写体を大きく撮ることが出来る。望遠レンズも被写体から離れたら広く撮影出来るがバックスペースがない現場では不可能。広角レンズは被写体に近づけるシチュエーションならば、自由自在に被写体の大きさをコントロール出来るのだ。この考え方は賛否ある事は認めている。だが、ここでは議論をする気はない。

 そこで気になるのが歪みの問題である。所謂ディストーションである。焦点距離の相違から来る遠近描写の歪みは僕は大好物で作品創りに積極的に取り入れているので問題とならないのだが、広角レンズにおいては収差から生まれる樽型や糸巻型の歪みがチェックすべきポイントとなるだろう。

 今回紹介しているRF15-35mm F2.8 L IS USMはその類の歪みが全く無いとは言わないが、自然であり違和感が無く好印象な描写を作り出すのである。EF16-35mm F2.8L III USMもその意味ではかなり高評価を僕はしている。そして四隅の像が流れる現象が少ない事も評価したい。

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■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF15-35mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:F8.0 1/80秒 ISO320 露出補正+2/3 WB 太陽光 ピクチャースタイル 風景

マクロ的な使い方も出来る

 花の撮影と言うとマクロレンズを思い浮かべるユーザーも多いと思うが、是非RF15-35mm F2.8 L IS USMを使って表現の幅を広げて欲しいと思う。花撮影に行き詰まりを感じているなら尚更である。今では当たり前になっているが、このレンズも最短撮影距離は28cmと短い。

 「蕗の薹(フキノトウ)」を撮影した2枚の写真を見て欲しい。1枚目は花に近づき見下ろすように撮影している。マクロほど大きく撮影することは出来ないが、花の存在感を写し出すには充分な撮影が出来ていると思う。2枚目はややワイド側にズームし背景が写り込むようにローアングルから斜めに撮影している。広角レンズ特有の遠近感が引き出されマクロレンズとは異なる世界観が写し出されている。マクロレンズとは異なる花撮影が可能なレンズである事が窺える。

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■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF15-35mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:F5.6 1/400秒 ISO800 露出補正-2/3 WB 太陽光 ピクチャースタイル 風景
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■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF15-35mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:F7.1 1/40秒 ISO400 露出補正+1 WB 太陽光 ピクチャースタイル 風景

 そこで気になるボケの問題だが下の写真を見て頂こう。流石に100mmのマクロレンズ絞り開放で撮影したようなボケ描写とはならないが、開放F2.8で撮影すると柔らかな背景ボケを写し出す事に成功している。花撮影で欠かせないテクニックとして玉ボケがあるが、玉の描写も気になるポイントだと思う。

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■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF15-35mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:F2.8 1/400秒 ISO1250 露出補正+1 WB オート(ホワイト優先) ピクチャースタイル 風景

 次の写真を見て欲しい。撮影距離と角度の関係もあると思うが、広角レンズ特有とも言える四隅にレモン型の玉ボケが現れていない。しかも、F4で撮影してはいるが玉が丸く美しく描写されている。玉ボケを縁取るように色の滲みが現れることがあるが、この作例では確認する事ができない。こう言った意味でも絞り形状、非球面レンズ&UDレンズ、そしてSWC&ASCコーティングが素晴らしい出来になっていることが分かる。

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■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF15-35mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:F4.0 1/2500秒 ISO400 露出補正-1/3 WB 太陽光 ピクチャースタイル 風景

ImageStabiliser(手ブレ補正)

 ImageStabiliserとは通称「IS」と呼ばれている、キヤノンの手ブレ補正のことである。キヤノンは今までこのクラスのレンズへのIS搭載には消極的だったのだが、今回は満を持しての搭載となった。その影響もあってレンズが太くなっていると言う噂があるが事実だと思う。その実力はカタログ上で最大5段分。EOS R5に装着しテレ側(35mm)だとなんと最大7段分もの手ブレ補正効果を実現していると言う。テレ側で7段分ならワイド側ならもっと効果が期待出来るのでないだろうか?ボディー内手ブレ補正未搭載のEOS Rでも5段分のアドバンテージがあるのは、かなり戦闘能力が高いと言える。

 そんな手ブレ補正の話をしているが、僕の風景写真は9割以上三脚を使用して撮影する。例え1/1000秒や1/2000秒のシャッター速度でもだ。この話を始めるとまたまた1冊本が書けてしまうので説明は割愛させて頂く。しかし、三脚を使用すると逆にブレてしまう状況があるので、そんな状況下では心強い味方になってくれるのは間違いない。

 「三脚を使うとブレる?」この話に興味が湧くユーザーも多いと思う。それは沢など流れがある場所に脚を入れて撮影しなければならない状況を表す。流水によって脚が揺れることがあるのだ。その時、僕は手持ちで撮影を行うのだ。構図も自由に調整出来るし、バリアングルを駆使することで水面ギリギリの撮影も可能になる。よりフレキシブルな撮影に挑戦出来るから作品の幅が広がる事受け合いである。一般のユーザーなら間違いなく三脚を使わない撮影シーンが増えるはずである。

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■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF15-35mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:F11 1/20秒 ISO200 露出補正+2/3 WB 太陽光

周辺光量

 レンズ評価で付いて回るのが四隅の減光である。所謂、周辺光量と言うやつだ。もう少し平たく言うと、良くないレンズは写真の中央の露出に比べて四隅がアンダー(暗い)な描写になると言うやつだ。RF15-35mm F2.8 L IS USMでさえ青空などを絞り開放で撮影すると周辺光量の落ちを確認する事が出来るが、絞り込んで撮影することでそれは気にならなくなる。

 キヤノンの場合は純正のRAW現像ソフト、DPP(デジタル・フォト・プロフェッショナル)を使う事で周辺光量の減光を緩和させる事が出来るのでさほど問題にはならない。僕の作風から言うと、逆に周辺光量はもっとアンダーになって欲しい位なのである。実を言うと作品展示の場合はわざと周辺光量を落としたプリントを制作するくらいなのである。これは、作風と大きく関わりがあるので一概に僕の考えが正しいとは言い切れないが、風景写真の場合は周辺光量が落ちるレンズのほうが使い勝手が良い事が多い。そう言った意味では出来すぎていると言える。

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■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF15-35mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:F2.8 10秒 ISO1600 露出補正-1/3 WB 太陽光

タイムラプス

 最近のデジタル一眼カメラはタイムラプス機能が搭載されているものが多く、気軽に撮影を楽しむ事が出来る。タイムラプスとは簡単に言うとパラパラ漫画と同じである。連続撮影したデータを連続再生する動画にまとめたものの事だ。カメラをタイムラプス設定にしておけば自動で動画にまとめてくれる。三脚さえあれば1度セットしておけば後は自動で撮影してくれるので、夕景など1度撮影地を決めたら移動しない撮影の時はセットするようにしている。静止画では絵にならない曇天の時でも変化のある作品を作り出すことができる。

 今回はRF15-35mm F2.8 L IS USMのパースの効いた画角を活かし、高速道路の奥行きと空間の広さをフレーミングしてみた。自動車の動き、雲の変化、夕暮れ時の露出の変化など静止画とは違う表現が写っているのではないだろうか。

■撮影機材:キヤノン EOS R + RF15-35mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:F4.0 1/50秒 ISOオート 露出補正+1/3 WB 太陽光

モノローグ

 価格帯から見てもRF15-35mm F2.8 L IS USMは高級レンズと言うカテゴリーに位置付けされるレンズだと思う。いざ購入しようと考えると躊躇してしまう価格だと言う事である。その金銭感覚は正しい。

 「ワイド側が15mmになった」内で触れているが、広角レンズ最強説の中でもRF15-35mm F2.8 L IS USMは最高ランクに位置付けされるレンズであると僕は言い切ることが出来る。つまり買って損をしたとは思わないレンズに仕上がっていると言う事だ。僕の持論ではあるが、広角レンズを使いこなすようになると望遠レンズの使い方がめっちゃ上手くなる。つまり写真総合力がぐぐっとアップする。是非、その手に持って写真ライフを楽しんで欲しいと思う。

8_作例.JPG
■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF15-35mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:F8.0 1/500秒 ISO320 WB 太陽光 ピクチャースタイル 風景

■写真家:秦達夫
後に家業を継ぐ為に写真の勉強を始め写真に自分の可能性を感じ写真家を志す。写真家竹内敏信氏の助手を経て独立。故郷の湯立神楽「霜月祭」を取材した『あらびるでな』で第八回藤本四八写真賞受賞。
日本写真家協会会員・日本写真協会会員・Foxfireフィールドスタッフ

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