ニコン Z 5 レビュー|タイムラプスをはじめるなら最初の1台はこれでキマリ!

成澤広幸

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はじめに

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タイムラプス動画の撮影の様子

 私はタイムラプス撮影という、ちょっと変わった動画撮影を得意としています。タイムラプスとは、間隔を空けて撮影したものを動画化するパラパラ漫画のようなもの。「写真で表現するハイスピードな動画表現」と言ったところでしょうか。

 みなさんが普段テレビで見ているような動画も実は写真で構成されており、ざっくりと説明すると1秒間に30枚連続撮影して再生したものが、皆さんが普段から慣れ親しんでいる動画になります。タイムラプスは、それが連続撮影ではなく、数秒だったり数分だったりと、間隔を空けて撮影したものを動画にしたものです。

 通常の動画の早送りでも同じことができますが、それが数時間の撮影だと、データ量がとてつもなく大きくなります。そこで間隔をあけて写真で撮影していけばデータ量を効率的に減らすことができ、しかも動画では表現できない「スローシャッター」による表現が可能となります。私はこの撮影を得意としておりYouTubeチャンネルなどでたびたび作品を発表、撮影方法のHow toを紹介をしています。

 今、実はニコンのカメラを使ったタイムラプス撮影が注目されているのをご存じでしょうか。ニコンのタイムラプス機能が他社と比べて段違いに優れているため、初めてのタイムラプス撮影でニコンZを選ぶユーザーが増えています。そこで人気なのがフルサイズのエントリーモデルである「Z5」なのです。

 タイムラプスは撮影設定をしたら、基本カメラを放置します。つまり、他にやることがなくなるのです。そのため「メインカメラを別に持っているけど、サブ機(タイムラプス専用機)としてZ5を」という買い物をしている方が多いようです。とても合理的。

 ここでは初めてのタイムラプスにZ5がおすすめな理由と、タイムラプス撮影を生かした写真の作品作りへの応用方法についてご紹介したいと思います。

インターバルタイマー撮影機能が実現する「ホーリーグレイルタイムラプス」

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ホーリーグレイルのイメージ

 「Holy Grail(ホーリーグレイル)」とは、海外で使用されているタイムラプス専用用語です。直訳すると「聖杯」ですが、実は「実現するのが困難なこと」という意味で用いられます。タイムラプスにおけるホーリーグレイルとは、昼間~夕焼け~星空~朝焼け~昼間といった露出変化が激しい時間帯のタイムラプス表現のことを指します。

 この時間帯をまたいだ撮影では、一眼カメラだと露出の細かい変化やホワイトバランスの変化にセンシティブに反応してしまうため「フリッカー」という明滅現象が発生しやすく、シームレスかつ滑らかな露出変化をタイムラプスで表現することがとても難しいことでした。タイムラプス専用のソフトウエアと、ソフトの使用を前提とした長時間のマニュアル撮影をすることで実現できるものでしたが、とてもハイレベルな画像処理と撮影技術が伴う作業だったため、誰でも実現できるものではありませんでした。実はそれがニコンのカメラでは完全オートでできちゃうんです。しかも完璧に滑らかなタイムラプスで……。

 このあたりをしっかり説明してしまうと、とても長く読みづらい記事になってしまうため、詳細を知りたい方は「ニコン Zcreators」に私が出演している動画をご覧ください。

 また、ホーリーグレイルをタイムラプス撮影するときのカメラ設定は、こちらの動画をご覧ください。

 「それって露出平滑化(平準化)でしょ?」と感じる方がいらっしゃると思いますので、この点だけ説明させていただきます。

 結論を先にお伝えすると、ニコン以外のメーカーでは、露出平滑化が備わっているカメラであれば、露出平滑化をONにして「絞り優先・ISO感度オート・WB固定」の設定で、昼間~夜景のタイムラプスはそこそこ撮れるものが多いですが、時にフリッカーが発生してしまうので、タイムラプス専用のソフトによる平滑化処理が必要です。また、夜景まではOKでも星空までとなると厳しいです。タイムラプス用ソフトウェアを必要とせず、または昼間~星空までのホーリーグレイルを滑らかに撮影できるのは、私が試した限りD850以降に発売されたニコンのカメラのみです。

 露出平滑化とはタイムラプスの撮影中に極端に露出が変わること(フリッカー)を防ぐものです。これはホーリーグレイル撮影で重要な「昼間~星空などの大きな明るさの変化がある中で、前後数枚の露出を確認しながら滑らかに露出変化させていくこと」とは根本的に違う機能になります。

 実際は、ISO感度やシャッタースピードを精度高く、そして細かく変化させていく露出変化プログラムが必要であり、”露出平滑化と並行して行うこと”で完全オートでのホーリーグレイルが実現するということです。カタログスペックでは表記できない機能なので「露出平滑化や平準化がついていればできる」と勘違いされてしまいがちですが、実際はそれだけでは実現できないということをご理解ください。

Z5で制作したタイムラプス作品

 まずはタイムラプス作品から。すべてニコン Z5で撮影しています。まずは「これがオートで撮れるのか!」と感動していただけたらとても嬉しいです。

■動画で使用した機材
Nikon Z5
NIKKOR Z14-24mm f2.8 S
NIKKOR Z20mm f1.8S
NIKKOR Z85mm f1.8S
NIKKOR Z50mm f1.2S
KENKO STARRY NIGHT フィルター
H&Y 100mm K-Series フィルターホルダー
H&Y アダプターリングNIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S
H&Y ドロップインCPL/ND1000
H&Y バランサーGND
H&Y Reverse GND
ifootage Shark slider mini 600 pro
MIOPS CAPSULE SLIDER 30cm

■使用ソフト
Adobe Premiere Pro
Adobe After Effects
Adobe Photoshop Lightroom
LRTimelapse5

Z6とよく比較されるZ5

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 ニコン Z5はフルサイズ機ミラーレスカメラのエントリーモデル。上位機種を踏襲しつつも、コストダウンを図って価格を約20万円まで抑えた良心的なカメラです。エントリーモデルと言っても上位機種のパーツを多く流用していたり、防塵防滴機能はそのままだったりと、性能を落としていない部分も多く存在します。

 お手頃価格でニコンのフルサイズミラーレスが手に入る!と思いきや、価格を考えたときに上位機種Z 6IIの前モデルとなるZ6は価格もお手頃となってきており、特に中古では比較検討する方もいらっしゃるようです。Z6がよいのでは?と考える理由のうち、最も多いものは「センサー」。Z6は「裏面照射型CMOSセンサー」を搭載していますが、Z5には搭載されていません。要するにZ6のほうが、中古カメラであっても優れたセンサーを採用しているため、より低ノイズで画質が良いだろうという意見なのです。

 確かにこの意見は正しいのですが、今回のテーマであるタイムラプスの観点からすると、むしろZ5のほうが適している点が3つあります。ここではニコン Z5がZ6よりもタイムラプス向きである機能を3つご紹介いたします。

Z5には備わっているタイムラプス撮影で必ず欲しい機能

①USB給電ができる

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モバイルバッテリーからUSB給電をしながら撮影を行う様子

 ニコン Z6はUSB経由の充電はできますが、給電はできません。つまり、撮影しながら電源を供給できないのでいずれはカメラが止まってしまうということになります。ホーリーグレイルタイムラプスは、日の出・日の入をまたぐ3~4時間を10秒~20秒くらいの間隔で平均的に撮影し続けます。けっこうな撮影枚数になりますね。

 途中でカメラが止まった時点で、撮影を再開してもそのシーンはジャンプカットしたような感じになってしまい、滑らかな変化を表現することはできません。数時間かけて撮影した苦労が一瞬で水の泡になってしまいます。

 ところがZ5の場合ですとUSB給電が可能なため、肝心なところでカメラが止まるという危険が圧倒的に軽減されます。上の画像のように、三脚に固定したモバイルバッテリーからUSB Type-Cケーブルでカメラに接続し、「セットアップメニュー」からUSB給電をONにするだけでOK。タイムラプス撮影をするならこの機能は必須と言えます。

②メモリーカードがダブルスロット

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ニコン Z5はSDカード対応のダブルスロット仕様だ

 タイムラプスはたくさんの写真を撮ります。より滑らかに表現しようとすると、おのずと短い撮影間隔で細かく撮影することになります。ときには1シーンが1,000枚を越えることもあります。でもせっかくの撮影の機会ですから、タイムラプスだけでなく他にもたくさん撮影したいですよね?

 Z6はメモリーカードが1枚しか入らないので、タイムラプスでガンガン使用するにはいささか危険です。タイムラプスを頑張りすぎて写真を撮る容量が残っていない……なんて悲しいことになることがあります。でもZ5はメモリーカードがダブルスロットなので、倍の撮影をこなすことできるんですね。

 また、メモリーカードの種類にも大きな差があります。Z6はXQDカード対応(ファームアップによってCFexpressも可)となっていますが、これが非常に高価。予備で何枚も……となるとレンズ1本買えるくらいの金額になっちゃいます。対して、Z5はSDカード対応なので、困ったときにはコンビニでも購入できるし、価格的に予備分も購入しやすい。ここには段違いなやさしさが存在します。

③インターバルタイマー撮影と、タイムラプス動画生成機能が同時に使用できる

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Z5ではタイムラプス撮影で静止画と動画の両方を記録できる

 Z6には、「インターバルタイマー撮影」と「タイムラプス動画」という項目があります。インターバルタイマー撮影からタイムラプス撮影をすると、静止画のみ記録され動画は生成されません。そして、タイムラプス動画から撮影をすると、静止画は保存されず、動画のみが生成されます。

 つまり、Z6の場合は、タイムラプス動画の生成はPCで行うのが基本になります。初級者ですとそれが苦手な人は多いでしょう。かと言ってカメラ内でタイムラプス動画にしてしまうと静止画が残らないので、写真として生かすことができません。

 ところがZ5の場合は、「インターバルタイマー撮影」→「オプション」にタイムラプス動画を生成する機能が備わっており、併用が可能です。しかも撮影した直後に待ち時間0秒で動画が生成されます。これが驚き!

 つまりはすぐその場でタイムラプス動画が完成してPCでの作業が必要ありませんし、写真も残るのであとで画像処理して写真として活用することも可能なのです。私の仕事でもこの機能は重宝していて、撮影したものをすぐにお客様に見せることができるのでとても助かっています。

 唯一、私の撮影でZ5が劣っているなと強く感じるところをご紹介します。それは液晶モニターの見やすさです。Z5の液晶モニターは暗所での撮影時に、画面内にノイズが多く発生します。このノイズがけっこうちらつくので、ピント合わせでマニュアルフォーカスをするときに星や街灯が見えにくくなります。昼間からスタートするホーリーグレイルタイムラプスでは問題ないですが、星空からスタートする星空~朝焼けのホーリーグレイルの場合や、単純に星景写真を撮影する場合はこの部分がデメリットになります。星空撮影の初心者の方には見づらいと感じるところだと思いますので、この点は理解していたほうがよいでしょう。

タイムラプスの各画像から美しい一瞬を切り抜いて作品作りに生かそう

 タイムラプスで撮影したそれぞれの画像は、貴重な一瞬を切り取っているものが多く、これを利用して静止画の作品作りに生かさない手はないでしょう。一瞬を待って一枚を逃さないためにじっとその時を待つのももちろん素晴らしいですが、タイムラプスを撮影しながらそのついでに写真も……となれば、非常に効率的に作品作りを行うことができます。

 作成したタイムラプス作品と、そこから切り抜いて静止画作品にしたものと、両方をお見せします。まずはタイムラプスから。Z5で完全カメラ任せで撮影したホーリーグレイルタイムラプスです。

■撮影機材:Nikon Z5 + NIKKOR Z20mm f1.8 S + KENKO STARRY NIGHTフィルター
■撮影環境:F2.5(絞り優先オート)、WB 自然光オート
■ISO感度設定:ISO100、制御上限感度ON、低速限界設定10秒
■インターバルタイマー撮影:撮影間隔12秒、露出平滑化ON、サイレント撮影ON、撮影間隔優先ON
■撮影日時:2021/4/20 2:25~5:11
■撮影枚数:853枚

 そしてタイムラプス中の一枚より星空の場面を静止画作品に仕上げました。Z5は静止画・動画の両方をデータとして残せるので、動画の1シーンを使ってこうした作品作りができるのもポイント。少し強めの画像処理を加え星空を浮きだたせました。

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■撮影機材:Nikon Z5 + NIKKOR Z20mm f1.8 S + KENKO STARRY NIGHTフィルター
■撮影環境:ISO12800、F2.5、SS10秒、WB 自然光オート
Photoshop CCで画像処理

 こちらも同じシーケンスのタイムラプス中の1枚より静止画作品に仕上げました。朝焼けが始まる直前、空がブルーモーメントに差し掛かったコマを使ってRAW現像・画像処理を加えました。山の稜線にうっすらと朝焼けの影響と思われる黄色味を帯びたラインが発生していますが、この色は人間の目では確認することができずカメラで写さないと確認できません。

 通常だと、このシーンを撮影したくても変化に気づかず撮り逃してしまったりするものですが、ニコンZを使えば瞬間を逃さず、しかも撮影中は車の中で寝て待ってればよいという(笑)なんとも効率的な方法で撮影することができます。しかも同時にタイムラプス動画も生成してくれる。なんと合理的な撮影方法なのでしょう……!

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■撮影機材:Nikon Z5 + NIKKOR Z20mm f1.8 S + KENKO STARRY NIGHTフィルター
■撮影環境:ISO12800、F2.5、SS8秒、WB 自然光オート
Photoshop CCで画像処理

 この画像はおよそ2時間の時間の経過を1枚の画像に合成して表現したものになります。左から右にいくに従って夜→朝になっていきます。松本市の夜景からブルーモーメント、ビースナスベルトが北アルプスにかかるモルゲンロートまで。ニコンのタイムラプス機能を使えば、こういった時間の経過による色の変化を写真・動画の両方で記録し作品作りをすることができます。

00_ニコンZ5の作例.jpg
■撮影機材:Nikon Z5 + NIKKOR Z14-24mm f2.8 S
■撮影環境:F2.8(絞り優先オート)、WB 自然光オート
■ISO感度設定:ISO100、制御上限感度ON、低速限界設定6秒
■インターバルタイマー撮影設定:撮影間隔10秒、露出平滑化ON、サイレント撮影ON、撮影間隔優先ON
タイムラプス専用ソフトLRTimelapse5 「Create Composition」機能で、3:50~5:41までに撮影したタイムラプス画像のうちを10枚を合成

Z5の高感度性能を検証

 そうは言ってもセンサー裏面照射じゃないんでしょ……という方にはこの画像をどうぞ。

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 この画像は上に載せた1枚目の作例の画像処理前のものです。言わば撮って出しの画像。上記の撮影データにも書いてありますが、なんとISO12800で撮影しています。中央部分を拡大してみましょう。

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 ISO12800でも意外にノイズが少ないことがわかります。裏面照射センサーではないのは確かですが、高感度性能としては充分なものが備わっていると思います。ISO6400、ISO3200にすれば、さらに低ノイズということですね。

 上記のタイムラプス撮影での優位性を保ちつつ裏面照射センサーを搭載した機種には、上位機種のZ 6II、Z 7IIがあります。どちらもこれまで説明した機能を備えており、さらにセンサー・連写性能などが向上しています。Z5でもいけそうだけどやっぱりこだわりたい!という上級志向の方は、ぜひ上位機種の購入を検討してみてください。

~おまけ~

 高感度ノイズが意外に少なかったので、今回の記事の内容は違いますが天体写真も撮影してみました。はくちょう座にある「網状星雲」といいます。高感度性能に優れているとこんな撮影も楽しめますね。

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■撮影機材:Nikon Z5、VIXEN SD81S、SDレデューサーHDキット、SXD2赤道儀、KENKO ASTRO LPR Type 2 52mm
■撮影環境:ISO12800、F6.1、SS181秒、WB マニュアル
同一構図で撮影した5枚の画像をStella Imege8で加算平均合成、Photoshop CCで画像処理

まとめ

 私はニコンZに惚れこんで3年が経ちます。その中でもZ5はコスパに優れた良心的なモデルです。皆様にこの魅力が伝われば大変うれしいです。

 最後に、私のYouTubeチャンネルでもZ5について紹介している動画があります。今回の内容とかぶる部分もありますが、こちらもぜひご覧ください。

 

 

■写真家:成澤広幸
1980年5月31日生まれ。北海道留萌市出身。星空写真家・タイムラプスクリエイター。全国各地で星空撮影セミナーを多数開催。カメラ雑誌・webマガジンなどで執筆を担当。写真スタジオ、天体望遠鏡メーカーでの勤務の後、2020年4月に独立。動画撮影・編集技術を磨くべくYouTuberとしても活動している。
・著書「成澤広幸の星空撮影塾」「成澤広幸の星空撮影地105選」「プロが教えるタイムラプス撮影の教科書」「成澤広幸の星空撮影塾 決定版」「星空写真撮影ハンドブック」
・月刊「天文ガイド」にて「星空撮影QUCIKガイド」を連載中。
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)正会員

 

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