ニコン NIKKOR Z 35mm f/1.8 S レビュー|熊切大輔

ニコン NIKKOR Z 35mm f/1.8 S レビュー|熊切大輔

35mmレンズの魅力


 皆さんの得意とするレンズはなんでしょうか?撮る被写体によってその選択肢は大きく変わると思います。鳥や野生動物、乗り物系は超望遠を。ポートレートなら中望遠。風景ならワイドとジャンルに沿ったレンズ選択をされていると思います。
 
 街をスナップで切り撮る私は昔から35mmをメインに使っています。そんな35mmが生み出す画とはどんな特徴があるのでしょうか?標準レンズは50mmというのが一般的です。人間の視野に近く、見た目の感覚に近い画角で写し撮る事ができます。それより少し広く写るのが35mmレンズなのです。

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■撮影機材:Nikon Z6 + NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
■撮影環境:ISO200, F16, SS1/30
 35mmの焦点距離は、フットワークを上手く使えば寄り引きが幅広くバランス良く表現できる画角だと感じています。私自身の画作りの特徴の一つとして「情報量の多い画作り」というのがあります。

 構図の中に様々な要素を詰め込むことで時代や流行が写り、ストーリーも生まれて来ると考えています。ポートレートなどでも寄った時に、被写体の背景に多くの空間を取り入れる事ができます。それによって背景を活かした、その場所で撮る意味を構図の中に忍ばせることが出来るのです。

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■撮影機材:Nikon Z6 + NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
■撮影環境:ISO100, F5.6, SS1/800
 引きの画作りの場合、28mm以下の広角レンズでは写る要素が構図の中で散漫になりすぎて間の抜けた画作りになりがちです。画角の中に程よく要素を詰め込む、そんなまとまりの良い画作りがしやすいのが35mmという画角なのです。

 ワイド感が足りなければ、構図の中に上手くラインを配置すれば、画角以上の広がりを感じさせることが出来ます。放射状のラインは特に実際の見た目よりも広く写し出しているように見えます。そんな凝縮と広がりのある表現を使い分けられるのが35mmレンズの魅力なのです。

NIKKOR Z 35mm f/1.8 Sで撮る


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 最近スナップ撮影によく持ち歩いているのは、ニコンZシリーズのミラーレスカメラです。今更説明するまでもないですが、フルサイズミラーレスの特徴でもあるコンパクトなボディでありながら妥協のない高画質な画作りを実現しています。二駅三駅とブラブラ街歩きをしながらの撮影にもストレスにならない、スナップにぴったりなカメラシステムがこのニコンZシリーズなのです。

 そんなZシリーズ本体と同時にリリースされたZマウントレンズ群。フランジバックの短いボディ構造に最適化され、自由度の高いレンズ設計により切れのある高解像な画を写し出すことが出来るようになりました。

 ボディとともに登場した標準ズームレンズ「NIKKOR Z 24-70mm f/4 S」、広角単焦点レンズ「NIKKOR Z 35mm f/1.8 S」、標準単焦点レンズ「NIKKOR Z 50mm f/1.8 S」、そんなラインアップの中で使用頻度が最も高いのがこのNIKKOR Z 35mm f/1.8 Sなのです。

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 NIKKOR Z 35mm f/1.8 Sの「S」はS-Lineレンズと呼ばれ高品質なレンズに与えられる称号です。そのSが物語るようにナノクリスタルコートも施された35mmf1.8は高い解像感と切れのある描写力、そして美しいボケ味が魅力のレンズです。

 そのコンパクトなサイズもカメラ本体とバランスが良く、スナップ撮影に適したレンズと言えるでしょう。今回組み合わせるボディはZ6です。Z7は高解像、Z6は高感度に強いカメラ、ざっくりいうとそんな棲み分けになっています。スナップでは解像感より高感度の表現の強さが活かされるケース多いので、今回は35mmf1.8とZ6の組み合わせで様々な街の情景を切り撮ってみました。

高い解像力


 なんといってもその高い解像力は被写体の幅を広げてくれます。EDレンズ2枚加えた9群11枚のレンズ構成、マルチフォーカス方式の採用により色収差を抑えてシャープで切れのある描写を実現しています。

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■撮影機材:Nikon Z6 + NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
■撮影環境:ISO400, F2.2, SS1/800
 無骨な東京駅の高架下の鉄骨。その線が生み出すデザイン的な面白さを活かした画作りが楽しい表現です。水平垂直をしっかり出すのがポイントなので、中途半端に斜めから撮らないようにしたいところです。歪みの少ないレンズ描写が正確な幾何学模様を生み出してくれます。あとはデザイン的に効いた構図に人をうまく絡ませると良いアクセントになって効いてきます。

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■撮影機材:Nikon Z6 + NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
■撮影環境:ISO400, F1.8, SS1/5000
 川越など古い宿場町を旅することも多いと思います。その歴史を感じる建物や看板の質感をしっかり写し撮ることで時の流れ、蓄積を表現することができます。細かいディテールを写し出すレンズの解像力が活かせる被写体と言えるでしょう。

 この場合被写体の色味が渋く暗い色が多いので露出オーバーになりがちです。風合いが飛んでしまいますので気持ちアンダー目に写すくらいがちょうどよい気がします。

美しいボケ味


 大口径単焦点レンズの表現の最大の魅力は美しいボケ味にあります。ワイドレンズはパンフォーカスで引いた画を想像するケースが多いと思います。ボケをだしにくい、そんなイメージがある方もおられると思いますが、使い方次第で様々な柔らかいボケを楽しむことが出来ます。

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■撮影機材:Nikon Z6 + NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
■撮影環境:ISO100, F1.8, SS1/31250
 街スナップと言うとビルや行き交う人々しか撮らないように思う方もいると思いますが、そこに気になる被写体がいれば何でも撮ります(笑)。ミツバチが一匹花の蜜を吸いにきました。

 たっぷりとした緑のボケ味で周りを囲む画作りにするため、後ボケはもちろん前ボケも多めに入れて柔らかい表現で切り撮りました。チルト式液晶を活用して、ローアングルで狙うことで前の草をレンズ前に配置し強い前ボケを演出しています。

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■撮影機材:Nikon Z6 + NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
■撮影環境:ISO200, F1.8, SS1/8000
 雨の日は雨の日の魅力があります。街歩きにでて雨でテンションが下がることもありますが、しっとりと濡れた神社などは非常にフォトジェニック撮影スポットです。絵馬やおみくじ、灯籠など神社にはずらっと並ぶ、連続性のある画になる被写体が多く存在します。

 ボケ味を活かした奥行き感のある演出で空間を切り撮りました。ボケの中に雨粒も上手く写り込みました。

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■撮影機材:Nikon Z6 + NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
■撮影環境:ISO6400, F1.8, SS1/1000
 テーブルフォトも楽しいものです。料理写真はSNSに最も上がっている被写体と言っても良いでしょう。スマートフォンで撮る方も多いですが、やはりカメラで撮ったボケ味を活かした作品のほうが「いいね」は多いようです。

 最短撮影距離が撮像面から25cmと、料理だったら一皿がちょうど収まるくらいまで寄れます。マクロレンズに交換しなくてもボケ味の効いた美しいテーブルフォトが十分楽しめるのです。友人のイタリアンにて桃の冷製パスタを頂きました。つややかなシズル感がたまりません。

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■撮影機材:Nikon Z6 + NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
■撮影環境:ISO400, F3.5, SS1/1000
 AFの性能はジャンルを問わず高性能に越したことはありません。マルチフォーカス方式はスムーズかつ高速で高精度なAF性能を実現しました。出会い頭のシャッターチャンスにどれだけ反応できるか、スナップ写真の生命線です。

 街を歩いていたらミニオントラックと三輪車のドラッグレースが突然始まりました。瞬間的にカメラを向けてもスムーズかつスピーディに合焦してくれます。

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■撮影機材:Nikon Z6 + NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
■撮影環境:ISO800, F1.8, SS1/2000
 f1.8の大口径レンズは夜の撮影にも強い武器となります。あわせて像面位相差AFとコントラストAFのコンビネーションのハイブリッドAF、-6EVの低輝度までAF可能なローライトAFを擁したZ 6のAF性能が夜間撮影の可能性を広げてくれています。

 ショーウインドウが生み出す都会的な瞬間を切り撮ってみました。わずかな光もクリアに表現してくれています。

まとめ


 様々なレンズを使い分けるのも面白いものです。しかし自分が得意とする画角、レンズを一本決めておくのもまた撮影を楽しむ一つになります。得意な画角が決まってくると被写体への距離感が事前につかめてきます。そうすれば自ずとシャッターチャンスへの反応が早くなります。

 もし今レンズ交換せず一本で乗り切るならどのレンズを使いますか?と問われればNIKKOR Z 35mm f/1.8 Sと答えるでしょう。高性能でフットワークの良いレンズはきっと皆さんの作品作りを一歩上のランクに押し上げてくれるでしょう。


■写真家:熊切大輔
東京生まれ。東京工芸大を卒業後、日刊ゲンダイ写真部を経てフリーランスの写真家として独立。ドキュメンタリー・ポートレート・食・舞台など「人」が生み出す瞬間・空間・物を対象に撮影する。
スナップで街と人を切り撮った写真集「刹那 東京で」を2018年に発売と共に写真展を開催。2021年には写真集&写真展「東京美人景」そして「東京動物園」の三部作で東京の今を撮り続けている。
公益社団法人日本写真家協会理事



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