富士フイルム GFX50S II|ラージフォーマットセンサーの新型カメラを深掘りレビュー

成澤広幸

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富士フイルム「GFX50S II」とは

 富士フイルムから2021年9月29日に発売された新型のミラーレス一眼カメラ「GFX50S II」。富士フイルムの強みである、35mmフルサイズセンサーの1.7倍もの大きさを誇る「ラージフォーマット」センサーを搭載した新機種です。前機種であるGFX50Sが2017年に発売されてから、4年が経過してのリニューアルとなります。

 富士フイルムのラージフォーマットセンサー搭載モデルでは、「GFX100S」が今年3月に発売されたのが記憶に新しいですが、GFX100Sが1億200万画素なのに対して、GFX50S IIは5140万画素。GFX100Sよりも25万円ほど抑えられ、50万円を切る価格設定となっています。ボディの筐体をGFX100Sと同じものを使用するなどパーツの共通化を図ることでコストを下げた結果、実現した価格ということです。

 さて、その実力はいかほどのものか。発売前に短い期間ですが使用することができました。天候が悪く、撮影機会がわずかしかない状況でしたが、なんとかこのカメラの魅力を伝えられる材料を得ることができました。GFX50S IIの実力を徹底検証してみようと思います。

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 GFX100SとGFX50S IIを並べてみましたが、ほんとに外観は同じ。唯一違うのは本体側面のGFXロゴ。GFX100Sは「GFX」だが、GFX50S IIはGFXの下に「50S II」と表記されています。

GFX50S IIの特徴 ~「センサーは前機種と同じ」ことは実はメリットだった

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 GFX50Sとの違いは、カメラ内画像処理エンジンであるプロセッサーにX-T4と同じ「X-Processor 4」が搭載されたこと。これにより前機種よりもさらに処理が高速化し、画質の向上にも成功したということです。しかしながら、このカメラのリリースを見た時に一般ユーザーはこう思ったはずです。

「あれ、センサーは前機種と同じなんだ……」

 古いモデルと同じということは、あまりプラスのイメージにはなりませんね。しかし皆さんご存知でしょうか。GFX100Sが発売されたとき「GFX50S/50Rのほうがキレがいいね」という評価があったことを。その理由はまさにセンサーにありました。

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特殊なマイクロレンズ形状によって「画質のキレ」を実現

 メーカーHPより抜粋。GFX50S IIの「画質のキレ」を実現しているのはマイクロレンズによるものだそうです。

 私もこのあたりは詳しくないので簡潔に述べようと思いますが、マイクロレンズとはセンサーの1画素に光を集める役割を果たすレンズのこと。マイクロレンズの働きにより効率的にセンサーへ光を届けることができるのですが、画素と画素のつなぎ目の部分が原因で画質に影響を及ぼすことがあるそうです。GFX50S IIに搭載されたセンサーはマイクロレンズの形状がGFX100Sとは異なっているため、こうした悪影響が少ないということでした。これがGFX50S IIの「画質のキレ」につながっているそうです。

 このためか、GFX50S IIに搭載されたセンサーは高感度撮影時のダイナミックレンジ(露光可能な光の範囲。ダイナミックレンジが広い=黒潰れ・白飛びに強い)の低下が極端に少ないものとなっています。とあるサイトで各社カメラのダイナミックレンジを測定する記事を見たのですが、通常は感度が上がっていくに従いどんどんダイナミックレンジが低下するのに対し、GFX50S IIはISO1600~ISO12800までの間はダイナミックレンジがほぼ一定であると評価されています。

 加えて「X-Processor 4」の搭載。実は私が前機種を使用したとき、ダイナミックレンジの広さは認めつつも、シャドー部の色ムラやノイズ耐性について不満がありました。今回GFX50S IIを使用してみたところ、その不満が「X-Processor 4」の搭載によって全て解決したという印象を持ちました。

富士フイルムからの提案内容を検証

 さて、理屈っぽい話が続いてしまいましたが、ここからは実写画像を用いながら解説をしていきます。富士フイルム公式チャンネルでGFX50S II発表時の内容は「フルサイズで高画素のタイプを使うなら、センサーサイズがより大きくてピクセルサイズの大きなGFX50S IIを」というものでした。

 フルサイズセンサーで高画素化すると、画素ピッチ(1画素の大きさ)が小さくなってしまうため、1画素に対しての情報量が少なくなってしまう。すなわち高感度撮影時のノイズやダイナミックレンジが低下してしまうということです。GFXのようなラージフォーマットのカメラであれば、高画素化してもセンサーサイズが大きい分画素ピッチも大きくなり、悪影響が少なくなるというわけです。

 この点について他社高画素フルサイズ機とどう違うのか、実際に検証をするべく同一条件で撮影をしてきました。次の画像を見てください。

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【GFX50S II】検証画像①
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【他社高画素フルサイズ機】検証画像①

 月没間近の時間帯に撮影しました。どちらもISO12800、f4、SS10秒、ホワイトバランスはAWBで撮影した「JPEG撮って出し」の画像です。もしここまでで説明した通りの性能であれば、高感度撮影時のダイナミックレンジ幅に大きな差がでるはずと考えました。中央の建屋の部分を拡大してみます。

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 明らかな差がでました。他社高画素フルサイズ機は建屋や下の草の部分などの描写が曖昧な感じになっていますが、GFX50S IIは比較的ディテールを残しつつシャープに撮影できていることがわかります。

 同じ環境で別の構図で撮影したものを見てみましょう。以下の2枚も同じ設定で撮影した画像です。

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【GFX50S II】検証画像②
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【他社高画素フルサイズ機】検証画像②

 空と木の境界線部分を拡大してみましょう。

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 これも明らかな差が出ました。GFX50S IIで撮影した画像はひとつひとつの木の枝がくっきりとしていますね。画像処理が得意なユーザーはここからさらにノイズ低減やコントラストの強調などを行います。元データにこれだけ差があると、後の画像処理にも大きな影響がでると考えられます。画像処理をしないユーザーにとってはさらに恩恵があるでしょう。

ダイナミックレンジを生かすには

 ここまでの検証で、富士フイルムが提案する内容が実証されたと思います。GFX50S IIが素晴らしい画質を誇ることはわかりました。次に私が考えたことは「このカメラでどんな被写体を撮影したいか」です。広大なダイナミックレンジを生かしてどんな表現をしたらよいのか。私が得意とする星空の撮影は、この性能を生かせる被写体のひとつだと思いますが、カメラをお貸し出しいただいている間は悪天候が続き、月齢も満月近辺にさしかかったため、満足のいく星空撮影をすることができませんでした。

 そこで、より明暗差のある被写体を求めて、私は池袋にあるサンシャイン水族館へ行ってきました。
※サンシャイン水族館から許可をいただいて撮影しております。

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■撮影機材:FUJIFILM GFX50S II + GF80mmF1.7 R WR
■撮影環境:ISO6400, f2.8, SS1/640, AWB

 パーフェクトブラックの中を浮遊するクラゲ。これならGFX50S IIのダイナミックレンジを活かせるだろうと考えましたが、間違いのない選択だったようです。画像を開いた瞬間にラージフォーマットで撮影したことがわかる圧倒的なディテール。暗いところから明るいところまでの、なだらかな変化と締まった背景の黒がとてもうっとりしませんか。

 画像処理で明るさのみを持ち上げた画像がこちら。

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 もう一枚別角度から。

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■撮影機材:FUJIFILM GFX50S II + GF80mmF1.7 R WR
■撮影環境:ISO6400, f2.8, SS1/640, AWB

 画像処理後のものがこちら。

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 画像処理をしていて、とてもいじりがいのあるデータだと思いました。ちょっとした操作で一気にいろいろなものが溢れ出てきます。画像の中に含まれる情報量がいかに豊富であるかの証です。とても楽しく画像処理をすることができました。私のYouTubeチャンネルのライブ配信で、GFX50S II撮影画像を画像処理する場面をお見せしました。興味のある方はご覧ください。1:01:35~です。

その他の作例

■朝焼けに包まれる伊豆大島
 こちらも画像処理なしの作例です。朝焼けを狙って展望台で待ち構えていたところ、急激に焼けました。とっさの撮影でしたが、白飛びも黒潰れもなく非常に粘りのある描写です。これぞまさにラージフォーマットの力!

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■撮影機材:FUJIFILM GFX50S II + GF32-64mmF4 R LM WR
■撮影環境:ISO100, f8, SS1/2秒, 焦点距離64mm, AWB

■池袋サンシャイン展望台から
 こちらも画像処理なしです。レンズの性能も相成って、絞ると隅々までバッキバキですね!レタッチの必要性を感じない画像です。

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■撮影機材:FUJIFILM GFX50S II + GF32-64mmF4 R LM WR
■撮影環境:ISO125, f10, SS30秒, 焦点距離35.6mm, AWB

ここは惜しかった!3つの気になる点

 画質について素晴らしい性能があることはよくわかりました。が、気になった部分ももちろんありますのでここで述べておきます。

①大きい・重い
 センサーサイズが大きい分、一般的なフルサイズ機に比べてボディもレンズも大きくなります。持ち運びがしやすいとは言えません。

②AFが安定しない
 GFX100Sには備わっている位相差AFがGFX50S IIにはありません。コントラストAFのみです。それでも前機種よりはAF性能が上がっているとも感じましたが、水族館での撮影ではピントが迷うことが多く、時折マニュアルフォーカスを使う場面もありました。

③「低照度優先」機能がない
 X-T4やGFX100Sには「低照度優先」という液晶ブースト機能がありますが、GFX50S IIには搭載されていません。この機能があると星空撮影時の構図確認が格段にしやすくなるのですが、センサーの問題か、残念ながら非搭載。

GFX100Sユーザーは買い換えるべきか?どんな人におすすめ?

 実はここで迷っている人が多いのではないかと思いますので、私の意見を述べさせていただきます。GFX100SとGFX50S IIを迷っている方には、個人的にはGFX100Sをおすすめします。GFX50S IIを実際に使ってみるとその高画質ぶりには驚きましたが、高感度時のノイズ耐性や画像処理時の元データの素直さはGFX100Sの方が処理がしやすいという印象を持ちました。GFX100Sを検討されている方は画像処理などの技術をすでにお持ちの方が多いかと思いますので、そのあたりについては私のGFX100Sレビュー記事をご覧ください。

 GFX50S IIは、他社フルサイズ機を使用していて風景写真の分野でさらなる画質を追求したい方や、前機種をお持ちの方におすすめです。特に前機種GFX50Sからの買い替えは強くお勧めしたいと思います。

 いかがでしたでしょうか。少々理屈っぽいレビューになってしまいましたが、GFX50S IIに大きく踏み込んだレビューになったのではないかと思います。今後も富士フイルムの動向から目が離せませんね!

■写真家:成澤広幸
1980年5月31日生まれ。北海道留萌市出身。星空写真家・タイムラプスクリエイター。全国各地で星空撮影セミナーを多数開催。カメラ雑誌・webマガジンなどで執筆を担当。写真スタジオ、天体望遠鏡メーカーでの勤務の後、2020年4月に独立。動画撮影・編集技術を磨くべくYouTuberとしても活動している。
・著書「成澤広幸の星空撮影塾」「成澤広幸の星空撮影地105選」「プロが教えるタイムラプス撮影の教科書」「成澤広幸の星空撮影塾 決定版」「星空写真撮影ハンドブック」
・月刊「天文ガイド」にて「星空撮影QUCIKガイド」を連載中。
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)正会員

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