これから始める星景写真 Vol.1|自宅周辺で夜の撮影に慣れよう

北山輝泰

01_星空写真.JPG

はじめに

 星景写真家の北山輝泰です。今回は、これから星景写真を始めたいと思っているビギナーの方向けに、撮影に必要な道具から撮り方までをご紹介します。普段見慣れている自宅周辺も、見上げてみるとそこには必ず星があります。まずは身の回りの環境で夜の撮影に慣れることから始めましょう。

星景写真とは

 星景写真とは「星空」と「風景」を一緒に撮影する写真のことです。「せいけい」写真と読みます。星空には、星座や惑星、月などがありますが、それらを夜ならではの風景と共に撮影していくのが星景写真の醍醐味です。撮影には特殊な機材は必要なく、すでに持っている機材で始めることができますが、暗い中での機材の操作や構図決めなど、昼間の撮影にはない難しさがあります。

星景写真撮影を始める上で大事なことは

1. 身近な環境で夜の撮影に慣れること
2. 暗い中での機材の扱いになれること
3. 月明かりがある日から始めること

の3つです。いきなり自宅から離れた真っ暗な環境に行くのではなく、まずは月明かりがある明るい日を選んで機材の扱いに慣れるなど、コツコツ経験を積み上げていくのが星景写真を始める上で重要です。

02_星空写真.JPG
■撮影機材:ソニー α6400 + E 18-135mm F3.5-5.6 OSS
■撮影環境:ISO250 F1.8 8秒 WB蛍光灯 焦点距離18mm(35mm判換算27mm相当)

星景写真撮影に必要な機材

 撮影に必要な機材は主に下記の4つです。
・カメラ
・レンズ
・三脚
・ヘッドライト

 まずカメラは、マニュアルモードが搭載されている機種であれば、一眼レフ、ミラーレスのどちらでも構いません。高級なコンパクトデジタルカメラにはマニュアルモードが使えるカメラもありますので、そのような機種であればコンデジでも大丈夫です。また、カメラはセンサーの大きさによって「フルサイズ」「APS-C」「マイクロフォーサーズ」と種類が分かれていますが、どのサイズのカメラでも問題ありません。もちろん、最新の機材であればあるほどノイズが少ない綺麗な写真が撮れますが、まずはお持ちの機材でどのような写真が撮れるのか試してみましょう。

03_α6400とレンズの製品画像.JPG
ソニー α6400に高倍率ズームレンズキット同梱レンズのE 18-135mm F3.5-5.6 OSSを装着。レンズ単体はFE 20mm F1.8 G。

 カメラで重要なことは、ライブビュー機能が使えるかどうかです。星空のピント合わせや構図合わせは、ライブビューを見て行う方が遥かに簡単ですので、お持ちのカメラにこの機能があるかは必ず確認しましょう。

 2つ目にレンズですが、カメラを買った時についてきたキットレンズでも十分ですが、星景写真は夜空に加え風景も撮影しますので、広い範囲を撮影できる広角をよく使います。レンズに刻印されている焦点距離の値を見て広角で撮影できるかを確認しましょう。目安は35mm判換算でおおよそ24mm以下です。また、暗い星空を明るく撮影するためには絞り値(F値)も明るい方がいいでしょう。理想的なのはF2.8以下のレンズですが、キットレンズでそのような明るいレンズはなかなかありませんので、そこはシャッタースピードやISO感度で補いながら撮影しましょう。F値が明るいレンズは、空が暗い場所での撮影には欠かせませんので、星景撮影に面白さを感じていただけたらぜひ購入も検討してみてください。

04_ソニー E 18-135mm F35-56 OSSとFE 20mm F18 Gの製品画像.jpg
左はE 18-135mm F3.5-5.6 OSS。右はFE 20mm F1.8 G。

 3つ目に三脚ですが、調べてみるとたくさん種類があり、どれを買ったらいいか分からないという方も多いのではないでしょうか。星景写真用の三脚で一番重要なことは、安定性です。空の暗さによっては、30秒程度シャッターを開ける必要もあり、この間に風が吹いてブレてしまっては意味がありません。安定性は、三脚のパイプの太さと材質が関係していますが、おすすめは、パイプが太く、材質がアルミやカーボン製のものです。

 また、三脚を伸ばした時の高さも気にする必要があります。ピント合わせや構図合わせ、撮影した写真の明るさの確認など、カメラのモニターを確認する頻度は非常に多いです。そのため、自分が無理な姿勢にならずにモニターを確認できる高さにカメラがあることが重要です。三脚の仕様欄には「全高」という項目がありますので、自分の胸から顔の高さになる三脚を購入されるのがおすすめです。最後にカメラを載せる雲台の部分ですが、主に2WAY、3WAY、自由雲台式がありますが、水平が取りやすい3WAY式、もしくは自由雲台式がおすすめです。

 4つ目にヘッドライトですが、これは暗い中で両手を自由に使うためには必ず必要になります。防災のためにヘッドライトをお持ちの方も多いかと思いますが、星景写真では主に手元を照らすために使いますので、あまり明かりが強いものは使いません。私の場合は、駐車場から撮影場所まで徒歩移動する時に使う登山用ライト(右側)と、撮影用に使う天体観測用ライト(左側)の2つを使い分けています。

05_ライトの光り方の比較写真.JPG
右は登山用ライト。左は天体観測用ライト。

星景写真撮影の流れ

 星景写真撮影の難しいところは、カメラが自動で明るさや色を決めてくれるオート撮影ができないことです。日中の撮影では、ある程度のことはカメラが自動で調整してくれるため、構図決めに集中することができますが、星景写真撮影では、自分で一つ一つ丁寧にセッティングをしていく必要があります。以下が基本的な星景写真撮影の流れになります。

1. 撮りたい方向を決める
2. カメラと三脚をセットする
3. ピント合わせをする
4. 構図を決める
5. 試し撮りの値を入力しシャッターを切る
6. ISO感度、シャッタースピードを変えて試し撮りをする
※5~6を繰り返しながら明るさや色味を確認する
7. 本番撮影をする

 はじめに撮りたい方向ですが、最初は明るい星がある方向がおすすめです。季節によって変わりますが、肉眼でもはっきりと分かる星を探しましょう。次にカメラを三脚にセットしたら、見つけた明るい星の方向にカメラを向けます。レンズキャップを外してライブビューを起動したら、目の前の風景がぼんやり映る程度まで、シャッタースピードを遅くします。そうすると、明るい星が背面液晶に写りますので、その星でピント合わせを行います。もし星が写らない場合は、以下の原因が考えられますので、一度カメラの設定を見直しましょう。

・ピント位置が近くのものにピントが合う状態になっている
・ISO感度が低すぎる
※露出設定がライブビューに反映される場合
・絞りが閉じている
※露出設定がライブビューに反映される場合。または、絞り機構がレンズ側についている場合。

 星のピントはオートフォーカスでは合わせられませんので、マニュアルフォーカスに切り替えて、自分でピントリングを回し、ピント合わせを行います。手順については解説動画を作成しましたので、こちらの動画をご覧ください

 おおよその手順としては
1. モニターに写った明るい星のところにピント拡大枠を動かす
2. モニターを拡大する
3. ピントリングを回して、星の点像が一番小さくなるところを探す
4. 最初の画面に戻す
となります。

 次に構図合わせですが、はじめのうちは無理に風景を上手に撮ろうと考えるより、星空が綺麗に撮れているかを優先的に考えるようにしましょう。何回かシャッターを切り、明るい星の撮影に慣れてきたあとは、撮影したい星座を決めてその方向を撮る練習を何度も繰り返します。星座を探すときには、星座早見盤やスマートフォンのアプリを使います。

 次はいよいよ試し撮りです。そのときの目安となる露出設定はISO感度800 / F値 開放(一番小さい値) / シャッタースピード 10秒になります。この値は、郊外の住宅地で撮影した時の目安の設定ですので、撮影場所によっては明るすぎたり暗すぎたりするでしょう。そのため、一枚撮影したら写真を再生して明るさを確認します。もし、明るいと感じたらISO感度を400にしてみてもう一度撮影してみましょう。逆に暗いと感じたら、シャッタースピードを10秒ずつ長くしてみましょう。

 この「明るい」もしくは「暗い」という感覚ですが、ここに落とし穴があります。人間の目のメカニズムですが、暗い環境では、安全を確保するために目の瞳孔が拡大し、たくさん明かりを吸収しようとします。一方、室内など明るい環境では、瞳孔が縮小します。写真を見る環境は主に室内ですので、夜、瞳孔が拡大している状態で撮影し、丁度良いと思った明るさの写真も、明るいところで見ると暗いということになります。そのため、夜の撮影では多少明るめに撮っておくほうが良いでしょう。写真の明るさは「ヒストグラム 」を使って確認することもできます。

 明るさの確認の時に、合わせて色味も確認しましょう。ホワイトバランスを曇天や太陽光にすると写真は赤みが強くなり、逆に蛍光灯や電球にすると青みが強くなります。この辺りは好みもありますので一概には言えませんが、私は蛍光灯で撮影することが多いです。

 ここまでくれば、あとは本番の撮影を残すのみです。カメラのシャッターボタンを押す際のブレをなくすため、セルフタイマーで撮影するのが良いでしょう。撮影が終わったら撮った写真を再生し、ピントがずれていないかなど再度チェックします。

 自宅周辺が明るくて、どうしても星空の印象が弱くなってしまう時は、ソフトフィルターを併用するのも良いでしょう。ソフトフィルターは、被写体を滲ませて柔らかい印象にしてくれるフィルターのことですが、星景写真では、星の存在感を際立たせるのに使います。ソフトフィルターは効果の強弱によって種類が分かれていますので、どれくらい滲ませたいかで選ぶようにしましょう。下記の写真はケンコー・トキナーさんから販売されているソフトフィルターで、効果の弱いものから強いものを順に並べたものです。

08_プロソフトンクリアを装着して撮影した星空写真.JPG
■プロソフトンクリアを装着
■撮影機材:ソニー α6400 + FE 20mm F1.8 G
■撮影環境:ISO400 F1.8 2.5秒 WB蛍光灯 焦点距離20mm(35mm判換算30mm相当)
09_プロソフトン(A)を装着して撮影した星空写真.JPG
■プロソフトン(A)を装着
■撮影機材:ソニー α6400 + FE 20mm F1.8 G
■撮影環境:ISO400 F1.8 2.5秒 WB蛍光灯 焦点距離20mm(35mm判換算30mm相当)
10_プロソフトン(B)を装着して撮影した星空写真.JPG
■プロソフトン(B)を装着
■撮影機材:ソニー α6400 + FE 20mm F1.8 G
■撮影環境:ISO400 F1.8 2.5秒 WB蛍光灯 焦点距離20mm(35mm判換算30mm相当)

自宅の周りで撮影できるもの

 ご自宅にベランダやバルコニーがある方は、ぜひそこから星空の撮影に挑戦してみましょう。その時、三脚を置くスペースがない場合は、ゴリラポッドなど、フェンスに巻きつけることができる三脚もあります。

11_ゴリラポッドを使用して撮影している様子.JPG
JOBYのゴリラポッド 3K PRO キットを使用
12_星空写真.JPG
■撮影機材:ソニー α6400 + FE 20mm F1.8 G
■撮影環境:ISO250 F1.8 8秒 WB蛍光灯 焦点距離20mm(35mm判換算30mm相当)

 星景写真の面白いところは、地上の風景が変わらなくても、季節や時間が変わることで写る星空がガラッと変わり、また違った印象の写真になることです。撮影した写真をもとに星空のアプリで写っている星を確認したら、アプリ上の日にちや時間を変えることで、その場所からどんな星が撮れるのかをシミュレーションするのもおすすめです。

 お庭がある方はそこに咲いているお花と撮るのも面白いでしょうし、車をお持ちの方は愛車と星空を撮影するのもいいでしょう。星空と風景の組み合わせは発想次第で無数にありますので、もう一度身の回りの風景を見直してみてくださいね。近くに街灯など強い光源がある場合、一緒に写してしまうとゴーストという光の反射が写ってしまうことがあります。カメラの向きを変えるか、焦点距離を変えるなどして、なるべく構図の中に写り込まないように撮影される方がいいでしょう

13_星空写真.JPG
■撮影機材:ソニー α6400 + E 18-135mm F3.5-5.6 OSS
■撮影環境:ISO400 F4.0 5秒 WB蛍光灯 焦点距離22mm(35mm判換算33mm相当)
14_星空写真.JPG
■撮影機材:ソニー α6400 + E 18-135mm F3.5-5.6 OSS
■撮影環境:ISO400 F4.0 5秒 WB蛍光灯 焦点距離22mm(35mm判換算33mm相当)

 肉眼ではわずかにしか見えなくても、カメラで撮影すると意外とたくさんの星があることが分かります。ぜひ一度お持ちの機材で身の回りでの星空撮影に挑戦してみてくださいね。次回の「これから始める星景写真 Vol.2」では、星景写真の景色にテーマを置いて、自宅からちょっと離れて風景を探して撮る方法についてご紹介したいと思いますので、どうぞご期待ください

■写真家:北山輝泰
東京都生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。天文台インストラクター、天体望遠鏡メーカー勤務を経て、2017年に写真家として独立。世界各地で月食や日食、オーロラなど様々な天文現象を撮影しながら、天文雑誌「星ナビ」ライターとしても活動。また、タイムラプスを中心として動画製作にも力を入れており、観光プロモーションビデオなどの制作も行っている。星空の魅力を多くの人に伝えたいという思いから、全国各地で星空写真の撮り方セミナーを主催している。セミナーでは、ただ星空の撮り方を教えるのではなく、星空そのものの楽しさを知ってもらうために、星座やギリシャ神話についての解説も積極的に行なっている。

第2回「それぞれの宙を見上げて」星空フォトコンテスト2021のお知らせ

main-1.jpg

 ビクセンでは第2回「それぞれの宙を見上げて」星空フォトコンテスト2021を開催しています。宙(そら)は、もっとも身近にある、スケールの大きな被写体です。満天に星の広がる高原や海辺から、歴史的な建造物とともに、都会の景色の中で、あるいはご自宅からも、星空を撮影することができます。みなさんの「宙を見上げる時の想い」を、ぜひ作品にしてご応募ください。お一人何点でもご応募可能です。

・募集締め切り:11月30日(火)
・募集テーマ:星にまつわる8つのテーマ(国内・海外問わず)
(1)自然風景
(2)山
(3)海
(4)建造物
(5)水鏡
(6)天体写真(星雲星団、惑星など)
(7)月
(8)自由
・応募方法:プリントまたはWeb
・各賞:グランプリ(1作品)ビクセンオンライン商品券5万円分 + 「星空雲台 ポラリエU」 ほか

詳細はビクセンホームページをご覧ください。

その他の商品はこちらから

関連記事

人気記事