マイクロレンズを楽しむ!ニコン NIKKOR Z MC 50mm f/2.8を最大限に活かせるボディとの組み合わせは?

熊切大輔

ニコン NIKKOR Z MC 50mm f/2.8を最大限に活かせるボディとの組み合わせは?

はじめに

2.8外観.jpg

 ニコンから2021年6月に2本のレンズが同時に登場しました。NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR SとNIKKOR Z MC 50mm f/2.8です。ニコンZシリーズ初のマイクロレンズとなります。ちなみにその呼び名ですが、一般的にはマクロレンズと聞くことが多い中でなぜニコンはマイクロレンズと呼んでいるのでしょうか。

 ニコンのHPを見ると「マクロレンズは本来、原寸大以上の倍率が得られる顕微鏡のような拡大光学系のレンズを指します。このためニコンは定義の厳密性をより重要視し、各社が「マクロレンズ」と呼ぶ縮小光学系で等倍撮影ができるレンズを「マイクロレンズ」と呼んでいます。」と書かれています。顕微鏡を作ってきたニコンならではのこだわりが詰まっているのがマイクロレンズなのです。

マイクロレンズのすすめ

 マクロ撮影は昆虫や花など被写体が限られていて私には無縁、と考える方も多いのではないでしょうか。しかし、意外に日常を何気なく切り撮っていても、ここ一番で寄って撮影したいシーンが訪れる事が多くあるものです。いざという時に撮れると便利なマクロ撮影、それを気軽に楽しめるのがNIKKOR Z MC 50mm f/2.8なのです。

 同時発売のNIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR Sは非常に高性能なマイクロレンズです。信頼のS-Lineレンズの描写は高い解像性能と色にじみを抑えた描写力を誇っています。強力な手ブレ補正搭載など、高性能ながら値段を抑えたバランスの良いレンズはプロの中でも大いに好評を得ています。

 一方で、105mmという焦点距離を使いこなすには被写体との撮影距離も確保せねばなりません。加えて、50mmと比較して大きめなサイズ感もあり、日常的に気軽に使うというよりはプロや専門的なマクロ撮影に特化した撮影に適していると言っても過言ではありません。日常のテーブルフォトなど取り回しよく気軽にマクロ撮影も楽しみたければ、このNIKKOR Z MC 50mm f/2.8を選択することをオススメします。

NIKKOR Z MC 50mm f/2.8スナップ作例

 マクロマクロと言っていますが当然、普通の50mmレンズとして日常の様々なシーンで幅広く撮影を楽しむことが出来ます。圧縮の程よく効いた表現は情報量の多い構図を生み出します。車の向こうの面白い表情。窓越しに撮ることでストーリーを演出しました。

2.8作例1.jpg
■使用機材:ニコン Z 6+NIKKOR Z MC 50mm f/2.8
■撮影環境:ISO200 F4 SS1/250

 日常使いならサイズ感が重要になります。なにより、大幅に小型軽量化されたレンズサイズはミラーレスシステムとのバランスがよく相性抜群です。

 静音かつスムーズなSTM(ステッピングモーター)と「前群繰り出し方式」のフォーカシングシステム採用で、ボディの小型化(全長約66mm、重さ約260g)が実現できています。電車の中から見えた気になる景色を追って気ままに下車。二駅三駅分の距離を撮り歩くのも全く苦になりません。

2.8作例2.jpg
■使用機材:ニコン Z 6+NIKKOR Z MC 50mm f/2.8
■撮影環境:ISO100 F2.8 SS1/1600

 もちろん近接撮影が最大の醍醐味です。最短撮影距離が0.16m、レンズの先端から被写体に約5cmまで近づいて、等倍のマクロ撮影ができます。小さなクローバーに乗る小さな水の宝石。日常では見過ごしてしまうようなミクロの世界をしっかりと写し出すことができるのです。

2.8作例3.jpg
■使用機材:ニコン Z 6+NIKKOR Z MC 50mm f/2.8
■撮影環境:ISO800 F5.3 SS1/800

 採用されているEDレンズは色収差(色にじみ)を抑え、非球面レンズの効果と合わせて周辺部まで高い解像力を得ることが出来ていて、小型でも表現力に妥協がないことがよく分かると思います。奥行きのあるたっぷりとしたボケ味も十分楽しむことが出来ます。加えて、暗所での光の表現も嫌なにじみもなく切れが感じられます。暗闇に続く提灯がこの場所の空気感をあらわしています。

2.8作例4.jpg
■使用機材:ニコン Z 6+NIKKOR Z MC 50mm f/2.8
■撮影環境:ISO800 F3 SS1/1250

 そんな優秀なレンズの画角、サイズ感を更に上手く、楽しく活かすボディとの組み合わせとして、私はZ fcにNIKKOR Z MC 50mm f/2.8をつけることをオススメします。

2.8作例5.jpg

 Z fcはDXフォーマット採用によりZシリーズの中でも更にコンパクトになり、持ち歩きカメラとしてクラシカルなデザインも相まって人気を博しています。そんなフットワークの良いサイズ感が小型軽量のNIKKOR Z MC 50mm f/2.8とぴったりなのは言うまでもありません。

 仮にNIKKOR Z 28mm f/2.8をお持ちの場合、その焦点距離の差は(APS-Cの為35mm換算)28mmは約42mm、50mmは約75mmとちょうど良いバランスになります。キットレンズの次のレンズとしてベストチョイスなのではないでしょうか。

 実質75mmという焦点距離はスナップでも効果を発揮します。程よい引き寄せ効果は手の届かなかった遠景を画角いっぱいに描いてくれます。交差点での俯瞰の表現。図形的な切り撮りをしつつ、印象的な登場人物が現れるのを待ちました。

2.8作例6.jpg
■使用機材:ニコン Z fc+NIKKOR Z MC 50mm f/2.8
■撮影環境:ISO320 F6.3 SS1/1000

NIKKOR Z MC 50mm f/2.8ポートレート作例

 そんな中望遠レンズはポートレートで非常に相性がよく、ボケ味の効いた美しい人物撮影が可能となります。そこで仮にデートに一本レンズを持っていくなら、というシーンを想定してZ fcにNIKKOR Z MC 50mm f/2.8をつけてモデルの雨宮ひろさんと東京の街にでかけてみました。

 紅葉の美しい街並みの背景を活かしながらブラブラと撮り歩きました。適度な前ボケを活かして奥行き感のある表現で切り撮ってみました。ちなみに、中望遠のボケ味ばかり意識すると単調な画ばかりになりがちです。ロケーションが良ければ意識して少し引き気味の画作りも挟むことによってメリハリをつけるのもポイントです。

2.8作例7.jpg
■使用機材:ニコン Z fc+NIKKOR Z MC 50mm f/2.8
■撮影環境:ISO100 F3.2 SS1/250
■モデル:雨宮ひろ

 もちろんポートレートならではの背景のボケ味を活かした撮影も十分楽しむことが出来ます。程よい緩やかなボケは適度に撮影環境を写し込み、街の個性を描きつつ、奥行きを演出してくれます。一方、シャープな表現は髪の毛一本一本を精細に写し出しています。

 瞳の中の横断歩道の写りこみもしっかりと写し切る描写は、スペック以上の表現力を実感させてくれます。ボケとシャープさのバランスが非常に良いレンズといえます。

2.8作例8.jpg
■使用機材:ニコン Z fc+NIKKOR Z MC 50mm f/2.8
■撮影環境:ISO100 F2.8 SS1/160
■モデル:雨宮ひろ

 雰囲気の良いレストランでランチタイム。電話をしに表に出ると、店の看板やガラスに反射する街の景色が重なったフォトジェニックな構図の中にいる彼女を見つけました。シャッターチャンスはいつ訪れるかわかりません。肌身離さず持ち歩けるサイズ感はそんな瞬間を逃しません。

2.8作例9.jpg
■使用機材:ニコン Z fc+NIKKOR Z MC 50mm f/2.8
■撮影環境:ISO800 F2.8 SS1/160
■モデル:雨宮ひろ

 出てきたパスタは見た目からシズル感たっぷりで食欲をそそります。いくらマクロだからといって寄りすぎると素材写真になってしまいます。適度に皿を写し込んで構図のバランスを取りたいところです。

 少し引いた画角を意識した場合、105mmでは引ききれない場合があります。座ったままで撮影できる距離感。50mmという気軽に撮影できるディスタンスが大きなポイントになります。

2.8作例10.jpg
■使用機材:ニコン Z fc+NIKKOR Z MC 50mm f/2.8
■撮影環境:ISO800 F3.3 SS1/200

 短いデートの終わり。少し寂しげに見える彼女の瞳の表情にぐっと寄ってみたくなりました。マクロならではの距離感。そしてシャープな合焦面とそこからなめらかにボケいく立体感はその瞳を強調し表情をドラマチックに演出してくれます。

2.8作例11.jpg
■使用機材:ニコン Z fc+NIKKOR Z MC 50mm f/2.8
■撮影環境:ISO100 F3.3 SS1/160
■モデル:雨宮ひろ

まとめ

 優秀で評判の良いNIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR Sの影に隠れている印象のあるNIKKOR Z MC 50mm f/2.8。しかし、その使い勝手の良さは多くの人の撮影環境にマッチするのではないでしょうか。

 加えてFX機とDX機の組み合わせを使い分ける事によって、それぞれ違った楽しみ方ができるのです。ジャンルを選ばず出会った被写体は何でも撮りたい、そんな欲張りな望みを叶えてくれるレンズと言っても言い過ぎではないかもしれません。

■写真家:熊切大輔
東京生まれ。東京工芸大を卒業後、日刊ゲンダイ写真部を経てフリーランスの写真家として独立。ドキュメンタリー・ポートレート・食・舞台など「人」が生み出す瞬間・空間・物を対象に撮影する。
スナップで街と人を切り撮った写真集「刹那 東京で」を2018年に発売と共に写真展を開催。2021年には写真集&写真展「東京美人景」そして「東京動物園」の三部作で東京の今を撮り続けている。
公益社団法人日本写真家協会理事

その他の商品はこちらから

関連記事

人気記事