XF56mmF1.2は世界を変えた|写真がもっと楽しくなるX

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まずはXの基礎知識を


 レンズやボディの名前には性能やクラスを示す記号が混じっています。マニアには当然のことで、ご自身で使っているメーカーのことはよく知っていると思います。ただ、ぼくは普段使用しないニコンやOMシステムのレンズやボディを見て「どれくらいの性能で、どのクラスの製品なのか」はすぐにわかりません。ここを読んでいる人のなかに、フジのXシリーズはわかりにくいんだよな……と思う人がいても不思議はないです。

 まずボディの名前を見て、X-となっていたら(ハイフンが付いていたら)レンズ交換式です。でもネットの記事を見ると、XT30とかX-100VとかXT-4と表記されていることがあります(これらはどれも間違いです)。どのメーカーでもあり得ることですが、おそらくいちばん誤記が多いのがXシリーズで、それくらい間違えやすいのでしょう。

デジタルの世界での10年


 じつはX-S1という初期のカメラで、レンズ固定式なのにハイフンが付いている機種がありました。理由は色々ありますが、誤解を恐れず言ってしまえば十年も先のことまで考えていなかったからです。デジタルカメラの10年後がどうなっているか想像するのが難しかった。

 フィルムの時代なら、フラッグシップ機だと10年のサイクルでモデルチェンジしていて、前の世代もバリバリ現役でいられたから20年は使い続けられました。それが現在では、最短で2年もすると新しいモデルが出て、5年も現役でいられるカメラは稀です。

 それでも10年先を見据えて作られる製品があります。それがレンズ。

未来を見るレンズ


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Xシリーズ始まりの1台であるX-Pro1

 まだ発売どころか開発もされていない、未来のセンサーがどれくらいの解像力になるかは想像するしかなくて、そのセンサーでテスト撮影もできないのに、それで撮影できるレンズを設計するのがどれくらい大変なことか。専門家たちの努力の凄さと、「レンズは資産だ」と言われる理由がわかります。

 とくに「シャッターごとにレンズテストをしているよう」と言われる最新のシビアなセンサーに耐えられる画質を、10年前に作っているなんてすごいことだと思います。

 Xシリーズは今年、レンズ交換式である最初のミラーレスカメラX-Pro1(ハイフンがついてる!)から10年になるため、Xマウント10周年というささやかなお祝いをしています。このとき同時に発表された三本のレンズも10年目を迎えますから、次世代のレンズにシフトしていく時期になっていくはずです。実際にもう何本かのレンズがII型になり、モデルチェンジされました。

 10年前のレンズが、あるとき急に限界を迎えるわけではないですが、新しいセンサーの能力を使い切ることができません。もちろんカメラは実用性が全てではなく、芸術性や趣味性も大切なので、最も古いレンズであるXF35mmF1.4 Rは今も現場で愛用され、神レンズとまで呼ばれ、Xのシンボル的な存在で、この一本のためだけでもXを使っているという人までいるほど。弱点もたくさんあるけれど、「やっぱいいわ、使えるうちはこれを大事にしよう!」と思わせる魅力があります。

 他にも素晴らしいレンズがあるので、ここで紹介していきます。

 その前に、この写真は何ミリくらいのレンズで撮ったように見えますか?

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■撮影機材:富士フイルム X-T2 + XF56mmF1.2 R
■撮影環境:SS1/2000秒 絞りF1.2 ISO200 WB 晴れ AF-S
■フィルムシミュレーション:Pro Neg. Hi
正解は56mm(換算85mm相当)。この距離で撮っているのに被写界深度が浅くて、手前から二人目はもうボケている。始めて使ったときには何が起きているのか理解するのに時間がかかった。

APS-Cの弱点をプラスに変える 
新しい時代の始まりを予感させた名レンズ
XF56mmF1.2 R


 最初に書いたような意味で名前を見ていくと、XFはXシリーズのハイグレード路線(数は少ないですがXCという廉価版もあります)の証。Xレンズの主力はほとんどがXFです。Rは手動絞りリング搭載の意味。「えっ、それだけ?」と思うかもしれません。プレミアやスペシャル、スーパーといった名前が付いていないから。これはXシリーズの特徴のひとつ。どれも最高レベルを目指してますよ、という誇りの表れです。そのせいで個性がわかりにくくなってるデメリットもあり、この「XF56mmF1.2 R」も名前だけ見ていて名レンズに思えないでしょう。

 それならこのレンズの何がすごいか?

 まずは56mmF1.2なのに一般的な50mmF1.4や85mmF2くらいに感じる小ささ。おまけにF1.2の大口径でありながら絞り開放から解像するので、F1.2が完全に実用できるために、ものすごく薄いピントで撮れます。当時のことを考えればこれは画期的なことでした。

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電子シャッターの進化と普及は大口径レンズを後押しした。快晴の日中でも絞り開放が常用できる。

 フィルム時代のように、絞り開放は甘くて二段絞ったところから本領発揮ということはなく、現代のレンズは絞り開放からトップレベルの性能で撮れるようになりつつありますが、このXF56mmF1.2 Rが発売された頃(2014年)は、まだそこにシフトしている途中段階でした。絞り開放でこんなにキレるなんて信じられなかったです。海外の写真家と交流する機会があったとき「あれ使った?えっ、まだなの!世界が変わるよ、絶対に手に入れるべきだよ」と言われたのを思い出します。

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■撮影機材:富士フイルム X-T2 + XF56mmF1.2 R
■撮影環境:SS1/800秒 絞りF1.2 ISO400 WB 電球 AF-S
■フィルムシミュレーション:PROVIA
傘のホネにピントを合わせて、隣のホネはボケている。分離と呼ばれる背景から際立つ主題こそがこのレンズの長所。

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■撮影機材:富士フイルム X-T3 + XF56mmF1.2 R
■撮影環境:SS1/125秒 絞りF1.2 ISO400 WB 電球 AF-S
■フィルムシミュレーション:Velvia
ローライトレベルでの撮影はこのレンズの本領発揮。絞り開放から実用できることがどれだけありがたかっただろう。

APS-Cでもボケは楽しめる、しかも…


 ここで当時のカメラのトレンドや、それを取り巻く状況を考えてみます。フルサイズに比べてAPS-Cはボケないからつまらないんだよな……という風潮のなか、XシリーズにはX-T1が登場して、一眼タイプの特徴を活かせるレンズが必要になりました。大口径の中望遠はそれにぴったりです。ボケを使いたいポートレートはもちろん、分離と言って背景から主題を浮き立たせるようなスナップの撮り方にも最高。しかも一日中持ち歩いていても負担がないほど軽い。

 AFは現代のレベルから考えると決して速くありませんが、中望遠の撮影距離は急いで撮る必要がない被写体が多いため、意外と気になりません。

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■撮影機材:富士フイルム X-Pro2 + XF56mmF1.2 R
■撮影環境:SS1/250秒 絞りF1.2 ISO200 WB 晴れ AF-S
■フィルムシミュレーション:ASTIA
■モデル:Mika Kataoka
遠近感や圧縮効果はやはり50mm前後のレンズのよう。でもレンズの先端にしかピントがないのはAPS-Cの大口径中望遠ならでは。

 フルサイズ換算85mmといってもレンズの性格は56mmなので、圧縮効果や距離感については自然な標準レンズに似ていて、とにかく扱いやすいのも魅力。85mmで撮ると情報量が少なくなって「狭すぎるかな」と思うようなシーンでも、このレンズなら撮り切ることができます。

 APS-Cの弱点をプラスに変え、新しい時代の始まりを予感させるレンズだと書いたのはそんな理由です。

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■撮影機材:富士フイルム X-T2 + XF56mmF1.2 R
■撮影環境:SS1/4000秒 絞りF1.2 ISO200 WB 晴れ AF-S
■フィルムシミュレーション:Pro Neg. Hi
角度がつきにくいため写真の印象がクールなのも特徴。標準レンズや広角レンズと混ぜて使うとさらに効果が高い。

買いか?待つべきか?


 もちろん最新のセンサーで撮ってみると、絞り開放では甘さを感じる部分もあり、ボケには収差による滲みも多少感じられます。もう「最大のウリは絞り開放の解像力」というわけにはいきません。

 富士フイルムが公開した最新のロードマップ(2022年5月31日のもの)には、このレンズの新しいモデルが加えられていました。時代の流れからして恐ろしい解像力を持ったレンズでしょうが、これまでのモデルチェンジから想像してさらに小型軽量になることはないと思います。10年先にも戦えるタフさと高解像が必要だから。そのときが来るとしても今日ではないです。

 XF56mmF1.2 RはXシリーズを使っていて中望遠を多用する人ならぜひ一度は試してみて欲しいレンズで、買って損はないと思います。

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■撮影機材:富士フイルム X-E3 + XF56mmF1.2 R
■撮影環境:SS1/60秒 絞りF1.2 ISO400 WB 晴れ AF-S
■フィルムシミュレーション:Classic Chrome
奥に走っていく人物はAFにとって苦手な被写体のひとつ。
このレンズなら距離をとって撮れるため、絞り開放シングルAFでも問題なかった。


■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist



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