ZEISS Loxia 2/50 レビュー|立体感のあるボケとムードを楽しめるMFレンズ

水咲奈々

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はじめに

 「ZEISS Loxia 2/50」は、ソニーのフルサイズミラーレスカメラシリーズのために開発された、マニュアルフォーカスのレンズです。4群6枚のプラナーのレンズ設計は高い画像品質を生み出し、金属が詰まっている感のある鏡筒は持つ喜びを感じさせてくれます。今回は、本レンズとソニーα7Cの組み合わせで、ポートレートのスチールとムービーでレビューしたいと思います。

諸収差を抑えたクリアな画

ZEISS Loxia 250作例.jpg
■使用機材:ソニー α7C+ZEISS Loxia 2/50
■撮影環境:F2 1/200秒 ISO1000 WB:5000K クリエイティブスタイル:ポートレート
■モデル:小栗絵里加

 本レンズの設計は、高性能レンズの代名詞とも言える、ツァイスの伝統的な「Planar(プラナー)」を採用しています。4群6枚のレンズは、ダブルガウス型の前後対称の構成になっており、球面収差、色収差、倍率色収差、歪曲収差を抑えて、被写体をクリアに描き出してくれます。

 今回はポートレートですので、絞り開放での描写がメインのレビューとなりますが、明るい系のポートレートが好みの筆者が、めずらしく露出アンダー目の描写のカットが多い結果となりました。

 なぜかというと、諸収差が抑えられているお陰で、露出を下げたシックな画にしても濁りが出ずに、ヌケのいい画が得られたからです。さらに階調の豊かさのお陰で、明るいところも暗いところもグラデーションとして階調が残り、べったりとした平面的な画にならずに意図したムードを表現してくれました。

 絞り開放、最短撮影距離の0.45mに近い近距離で、わずかな光で撮影していますが、コントラストの高い、それでいてバキバキに無駄なシャープさを入れてこない、心地良い描写に惚れました。

ポートレート・ショート・ムービー

■使用機材:ソニー α7C+ZEISS Loxia 2/50
■クリエイティブスタイル:ポートレート
■モデル:小栗絵里加
手持ち、ジンバル、三脚併用

 今回、何よりも楽しみだったのはこのムービー撮影でした。ツァイスのプラナーレンズでのムービー撮影は初めてで、どのような描写をしてくれるか、撮影前からわくわく感が溢れてしまうほどでした。

 結果、思い描いていたムードをそのまま、ムービーに落とし込むことができました。かなり光量の少ないところでの撮影でしたが、逆にそれが功を奏して地面に反射する硬い光、ブーツの柔らかさを表現する丸みのある光、ブレスレットの一瞬の輝きや逆光が形作るあごの輪郭など、被写体とシーンを繊細に彩ってくれました。

 撮影は手持ちと三脚少々、大部分をジンバルを使用して行いました。α7Cはフルサイズながら小型のカメラなので、小型・軽量の本レンズとの相性も良く、ジンバルでの片手の撮影も軽々行えました。

 カメラボディとレンズの重さ、大きさは、スチールではそれほど苦にならないのですが、ムービーの場合はスチールよりも低い位置での撮影が多く(これは筆者個人の好みでもありますが)、ジンバルを地面すれすれの低さで歩きながら撮影するときなどは、どうしても片手での撮影となり、その重量によって苦しさを感じてしまいます。

 本レンズは重量320g、最大径62mm、全長66mとその小ささは手のひらで包めるほど。重量はこのサイズにしては重みを感じますが、金属の塊のようなずっしり感はむしろ好みです。ジンバル装着時は、レンズの重量を見た目よりも重めに計算すると、バランスが取りやすいでしょう。

 また、動画撮影時に便利な機能として、絞りのクリック感をなくせる「デクリック」を搭載しています。同梱の専用ツールを使ってバヨネット面にある調整ネジをまわすことで、絞りリングのクリック感を消すことができるので、撮影中に絞りを変化させたいときに、絞りを動かす音を拾ってしまったり、露出がカチカチと不自然に変動することなどがなくなります。

 今回のムービーでは絞りの変化で印象が変わるようなシーンがなかったので、ピントをインフォーカスからアウトフォーカスにする、MFらしいフェードアウトを試してみましたが、いずれ屋外のシーンで、絞りの変化を見せるようなムービーを試してみたいと思いました。

ピントの合わせやすさは最上位!

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■使用機材:ソニー α7C+ZEISS Loxia 2/50
■撮影環境:F2 1/250秒 ISO400 WB:5000K クリエイティブスタイル:ポートレート
■モデル:小栗絵里加

 マニュアルフォーカスのレンズですので、ピント合わせは手動で行うことになります。そういうと、オートフォーカスに慣れている方は、ピント合わせに苦労するんじゃないかと思われるかもしれませんが、本レンズのピント合わせは、筆者が今まで使ってきたマニュアルフォーカスのレンズの中でも最上位に来るほど、とても見やすく合わせやすかったです。

 50mmの画角が扱いやすいということもありますが、余計なディストーションのない光学設計のお陰で構図がスムーズに行えるのも、本レンズがマニュアルフォーカスでもピントが合わせやすいことの一旦を担っていると思いました。

 ピントリングのトルクは筆者好みの重すぎず、軽すぎない、スタートダッシュがかかり過ぎない粘りのある感触で、モデルの瞳へのピント合わせという繊細な作業も、ストレスなく行えました。

マウントは電子接点搭載でEXIF情報の記録可能

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■使用機材:ソニー α7C+ZEISS Loxia 2/50
■撮影環境:F2 1/250秒 ISO400 WB:5000K クリエイティブスタイル:ポートレート
■モデル:小栗絵里加

 本レンズはマウントに電子接点を搭載しているので、絞り値などの撮影情報が記録できるのと、α7シリーズのMFアシスト機能が利用できます。

 筆者はポートレート撮影のときは、自動的にフォーカスエリアを拡大表示する機能はオフにすることが多いのですが、テーブルフォトや風景撮影などではオンにすることもあるので、撮影状況や好みによって選択できるのはありがたいと思いました。

信頼のおける「T*」レンズ

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■使用機材:ソニー α7C+ZEISS Loxia 2/50
■撮影環境:F2 1/200秒 ISO400 WB:6200K クリエイティブスタイル:ポートレート
■モデル:小栗絵里加

 レンズ前面に「T*」の赤い印字があり、このレンズが「T*(ティースター)コーティング」であるという証になります。

 レンズの表面に幾層も薄い膜を均一に重ねて、レンズ表面の反射と共に内面の反射をも抑え、フレアーを抑制することで、よりコントラストの高いヌケの良いレンズに仕上げるコーティング技術で、一定の性能基準を満たしている場合にのみ、「T*」の印字を施して信頼の証としています。

 逆光で撮影することの多いポートレート撮影では、このコーティング技術の恩恵に預かることがとても多いです。各メーカーによって、名称は違えどレンズ内外の反射を抑えるコーティング技術があり、画のクリアさを上げる手助けをしてくれています。

 本レンズも、このコーティング技術の恩恵は深く、屋内、屋外共に撮影を行いましたが、不要な反射が見当たらないだけではなく、その画のヌケの良さを感じることができました。

雰囲気を楽しめる立体感のあるボケ

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■使用機材:ソニー α7C+ZEISS Loxia 2/50
■撮影環境:F2 1/250秒 ISO400 WB:4800K クリエイティブスタイル:ポートレート
■モデル:小栗絵里加

 絞り羽根枚数は10枚、開放時には丸ボケの出やすい仕様です。木漏れ日のようなわかりやすいところ以外でも、ブレスレットの光や、背景の光源など、様々な写り込みが優しい形にボケるのは、ポートレートに向いているとともに、単純に写真を撮るのが楽しくなります。

 前ボケ、後ろボケについては、前ボケのほうが柔らかい傾向にあり、後ろのボケは物体の輪郭を保持しながら、柔らかくにじませるようなボケ方をします。背景をスッキリさせたいときは色数の少ない場所を選んだほうがいいですが、ボカしながらもその場の雰囲気を残したいときは、効果的に立体感を持ったままボケてくれるので、新しい演出を楽しめるレンズだと感じました。

 ツァイスのLoxiaシリーズの最初の一本として、本レンズはスチールを撮る方にも、ムービーを撮る方にもお勧めしたいレンズでした。

■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。日本写真家協会(JPS)会員。

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